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「ヤクザに追われ夜逃げ……夜行列車の網棚で寝たことも」カルーセル麻紀が自身の半生をとことん汚く描いた作家・桜木紫乃と語る

8/15(木) 6:00配信

Book Bang

桜木紫乃さんの最新刊『緋の河』はカルーセル麻紀さんをモデルにした長編小説です。新聞連載終了後に、おふたりの故郷、釧路で開催されたトークイベントには、氷点下15度という寒さにもかかわらず、1300人がかけつけました。出会いのきっかけから、連載中には言い出せなかったこと、電話の秘密。赤裸々な刊行記念対談をお届けします。

とことん汚く書いて

桜木 初めてお目にかかったのは、「財界さっぽろ」から出た麻紀さんの本(『カルーセル麻紀“自叙伝” 酔いどれ女の流れ旅』)に入っている対談のときですから、二〇一五年。対談が終わったあと、お食事をご一緒して。あの日にはもう、麻紀さんのことを書きたいと思い始めていました。

麻紀 その日は、そんなこと言ってなかったじゃない。

桜木 初対面で、書かせて欲しいとはなかなか言えません。対談をする部屋に入ったときに、長く芸能生活をされている方の不思議な圧を感じました。釧路出身だけれどまだ「カルーセル麻紀」さんに一度もお目にかかったことがなく、自分のこと、釧路出身者のもぐりみたいだって思っていたから。

麻紀 食事のときに「何を飲みます?」と訊いたら、「しゃわしゃわ飲みたいです」って。何のことかと思ったら、シャンペンのことだったの。「あら、私も大好きよ」って、シャンペンで乾杯して。食事しながら、本の話もいろいろしたんです。紫乃さんが『ホテルローヤル』で直木賞を取ったときに、すぐ本を買って読んで、ここには、釧路の人間にしかわからない「原風景」が書かれている、と思って感激しました。アフリカに行ってサバンナを見たときに、この風景、知っていると思って、ああ釧路に似ているんだと気づいたことがあったんです。そんな話を食事しながらして。あれ面白かったよね、という本のタイトルがなかなか出てこなかったんです。「ほら、からゆきさんが出てきて」って言ったら。

桜木 『サンダカン八番娼館』です、とすぐにわかって。好きな本の方向も似ていたんです。

麻紀 初めてお会いして、本も飲み物も好みがすごく似ていて。ストリップも好きだし、中学校も、北中(ほくちゅう)(釧路北中学校)で、同じということもわかって。

桜木 中学校の先輩、後輩なんです。

麻紀 『酔いどれ女の流れ旅』が、わたしの誕生日に出ることになりました。せっかくなのでと、ディナーショーを札幌のパークホテルでやることになったんです。

桜木 その打ち合わせにいらしたときに、伝えたんですよね。

麻紀 「麻紀さん、お願いがあるんですけど」って言うから「何?」って。そうしたら、「麻紀さんのことを小説に書きたいです」。

桜木 あっさり、「いいわよ」、そのあとに、「そのかわり、あたしをとことん汚く書いてね」と。そのとき生意気にもわたし「麻紀さんのことをとことん汚く書くと、物語が美しくなりますよ」と言いました。ただ、はっきり「汚く書いて」と言われたことで、別の緊張が生まれました。執筆前にも、新聞連載が始まってからも、いろいろなお店に連れていっていただいて、楽しい時間をご一緒しているんですが、それでもどこかで「だいそれたことを始めてしまった」という思いが残っていて、ときどき妙な不安にとりつかれることもありました。

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最終更新:8/15(木) 11:10
Book Bang

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