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川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド

8/15(木) 7:00配信

Book Bang

 高村薫がまた現代社会を相手にする力作を書いた。

『我らが少女A』は現在と過去の殺人事件がからみ合い物語が進んでゆく。

 といって通常のミステリのように最後に犯人が分かるわけではない。犯人探しより事件によって浮かび上がるさまざまな人間模様のほうが重要になる。

 主たる舞台は野川が流れ西武多摩川線が走る武蔵野の郊外住宅地。一見平穏に見えるそれぞれの家庭に暗い犯罪の影が落ちてゆくさまは緊迫感がある。

 桜木紫乃『緋の河』は性転換して女性になったカルーセル麻紀をモデルにした異色作。二人とも釧路出身で同じ中学だという。

 主人公は、子供の頃から女の子になりたくて仕方がない男の子。少年時代のくだりがとくに面白い。

 武張ったものが嫌いで美しいものが好きという主人公の思いが伝わってくる。

『古書市場が私の大学だった』の著者、青木正美氏は東京の下町で古書店を営みながらこれまで多くの古書エッセイを出してきた。

 その集大成。二十歳の時に店を開き、以来、仕事を通し、独学で好きな近代文学を研究してきた。

 とくに愛読する島崎藤村への思いがこもる。私小説好きなのでマイナーな作家、小山清も愛惜する。漫画はほとんど読まないのにつげ義春は好き。その会見記は貴重な記録になっている。

 台湾の小さな町を歩くとどこにでも氷菓店がある。日本でいうかき氷店。

 ハリー・チェン『台湾レトロ氷菓店』は台湾各地の氷菓店を訪ね歩いた楽しい食のエッセイ。

 たいていは家族で開いている個人商店。店によって味が違う。その町のソウルフードになっている。観光地でない町が多いのがいい。

 荷風『花火・来訪者 他十一篇』はこれまで文庫になっていなかったもの。多田蔵人氏の解説も読ませる。

[レビュアー]川本三郎(評論家)
1944年、東京生まれ。文学、映画、東京、旅を中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望景』(伊藤整文学賞)、『小説を、映画を、鉄道が走る』(交通図書賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『今ひとたびの戦後日本映画』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』などがある。最新作は『物語の向こうに時代が見える』。

新潮社 週刊新潮 2019年8月15・22日夏季特大号 掲載

新潮社

最終更新:8/16(金) 12:56
Book Bang

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