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アンネ・フランクを密告したのは誰なのか? 今も続く調査

8/16(金) 16:31配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

なぜナチス・ドイツに見つかった?

 オランダ、アムステルダムにある父親所有の倉庫に、2年以上隠れ住んでいたアンネ・フランクほか8人は、1944年8月4日、ナチスドイツとオランダ当局によって発見された。誰が、あるいは何が原因で、彼らの居場所が露呈したのか。75年たった今も、調査は続けられている。

ギャラリー:アンネ・フランクを密告したのは誰なのか 写真6点

 現在、歴史家やデータサイエンティスト、さらには未解決事件を扱う法医学者のチームまでが、新たなテクノロジーを駆使して、密告者を特定するための調査を進めている。一方で、フランクが発見されたのは偶然だったのではないかとする意見もある。

『アンネの日記』として知られる、アンネ・フランクが13歳から15歳までつけていた日記は、ホロコースト(ナチスによるユダヤ人の大量虐殺)にまつわる文章としては最も広く読まれている。オランダの人々にとっては、ごく普通の市民が命を賭して困っている人たちを助けるこの物語は、占領下のオランダを描いた最も卓越した作品なのである。

 しかし、アンネが書いた物語には、オランダがナチスドイツと結んでいた共謀的な関係については触れられていない。オランダ系ユダヤ人は、そのうち8割が大戦中に殺されており、この割合はポーランドについで2番目に高い。

「オランダは英雄的行為を自分たちの誇りとしてきました」と語るのは、アムステルダムにあるユダヤ歴史博物館とユダヤ人文化地区の最高責任者、エミール・スフレイヴェル氏だ。「自分たちが何より加害者であり、傍観者であることを受け入れるのには、まるまる一世代かかりました」

 長い年月の間に、30人以上の人々が、アンネとその友人や家族を裏切ったのではないかとの疑いをかけられてきた。

 そうした人物のひとりが、フランク一家の隠れ家の下の階で働いていた、好奇心旺盛な倉庫の従業員ヴィレム・ヘラルドゥス・ファン・マーレンだ。彼が犯人だったのかどうかを明らかにするために、1947年、そして1963年にも調査が行われたがファン・マーレンは、自分は密告者ではないとの主張を変えず、証拠もなかったことから、罪に問われることはなかった。

 また別の容疑者、レナ・ハルトグ=ファン・ブラデレンは、倉庫の害虫管理を手伝っていた。彼女の場合は、倉庫に誰かが隠れているのではないかと疑いを持つようになった後で、危険な噂を流し始めたと言われているが、後年に本人がインタビューで語った内容からは、家宅捜索よりも前の時点で、彼女が倉庫に人が隠れていると知っていたかどうかは判然としない。

 容疑者のリストはさらに続くが、ある人物が関与していたのか、それともしていなかったのかを証明するものは何もない。アムステルダムにある「アンネ・フランクの家」の主任研究員、ヘルトヤン・ブルック氏は、密告者を探すことが、本当に何が起こったのかを理解するうえでの妨げとなる可能性を懸念している。「『誰がアンネ・フランクを裏切ったのか』と問うことによって、視野が狭くなってしまうのです。このやり方では、他の選択肢を除外することになります」と彼は言う。

 ブルック氏は、フランク一家はそもそも裏切られてはおらず、彼らが発見されたのは偶然だったのかもしれないと考えている。この件について、氏は2年間にわたる調査を行っており、その結果、隠れ家にいた人たちは、不正な配給券をめぐる捜査の過程で見つかった可能性があると考えるに至った。

 逮捕当日に起こったこととして証明されている数少ない事実を総合的に考えると、それらは氏の主張を裏付けている。ひとつ目の事実は、ドイツとオランダの当局者が到着した時点では、隠れている人々を護送する手段が用意されていなかったことだ。そのため、彼らは急遽、その場で車を手配しなければならなかった。

 ふたつ目の事実は、家宅捜索に来たことがわかっている3人の役人のうちの1人が、配給券関連の犯罪の捜査をする部隊に配属されていたこと。そして最後の事実は、フランク一家らに闇市場の配給券を提供していたふたりの男は逮捕されていたが、彼らに対する訴えのうち1件は棄却されていることだ。このふたりのうちのひとりが、取引をしたとも考えられる。とくに、配給券を監督する警官がアンネ・フランクの家宅捜索にも加わっていたことを考えると、その可能性は高い。

 この理論は一見、つじつまがあっているように思えるが、ブルック氏にはこれを証明することはできない。「残念ですが、結局のところ明確な証拠はないのです。それでも、小さな事実を重ねていけば、何が可能だったかという範囲は狭まっていきます。調査の目的は、主にそこにあるのです」

 20人以上の法医学、犯罪学、データの研究者からなるまた別のグループが目指すのは、犯人を1人にまで絞り込むことだ。元FBI捜査官のビンセント・パンコーク氏率いるこのチームは、現代の未解決事件を扱うときと同様の捜査を行っている。彼らは何年もかけて保管文書を徹底的に調べ上げ、世界中の関係者から話を聞き、さらには21世紀のテクノロジーを駆使して、これまでとは別の観点から手がかりの検証を行ってきた。彼らはフランクの隠れ家の3Dスキャンを作成しており、これは近隣の建物に音がどのように伝わったかを確認するためだ。

 彼らはまた、人工知能を使って、この件に関連する個人、場所、出来事の目に見えないつながりを探っている。データ解析企業のエクソムニアは、アーカイブされたテキストを分析し、微妙な差異を考慮に入れた、階層型のネットワーク・マップを作るためのカスタム・プログラムを作成した。

「これを使ってできるのは、たとえば言葉や名前が、どのくらいの頻度で一緒に使用されているかを確認するという作業です。もし特定の名前が何度も一緒に使われていれば、そこにネットワークのようなものを作り、ネットワーク解析を行うことができるわけです」と、エクソムニア社の主任データサイエンティストであるロベルト・ファン・ヒントゥム氏は言う。たとえば、家族の関係者の住所と警察の調書を互いに照らし合わせて、フランクの家の近隣で起こったさまざまな出来事に、誰が関わったり、気づいていたりしたかを見ることも可能だ。

「そうしたあらゆる側面の情報をすべて加えることにより、これまでは見えなかったイメージが立ち上がってくるのです」と、ヒントゥム氏は説明する。

「未解決事件」チームは、調査の結果判明したことを、来年出版予定の本で発表することにしている。

 隠れ住んでいた8人のユダヤ人のうち、アンネの父のオットーだけが戦争を生き延びた。裏切り者を裁判にかけるには遅すぎるかもしれないが、反ユダヤ主義が台頭しつつある中、この研究は今も多くの人にとって重要な意味を持つ。「あそこで何が起こったのかをより深く理解することによって、人がどのように互いを扱い、未来に備えるかを学ぶことができるのです」と、スフレイヴェル氏は言う。

文=SYDNEY COMBS/訳=北村京子

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