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没後10年! マレーシアの映画監督ヤスミン・アフマドと多文化共生社会:『タレンタイム』『細い目』

8/16(金) 20:51配信

GQ JAPAN

現代に生きる女性たちの/による表現をめぐる、ライター・野中モモによる連載。第14回は、今年没後10年を迎えるマレーシアの映画監督、ヤスミン・アフマドのお話。

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ヤスミン・アフマド監督没後10年

少子高齢化が進み全体の人口がどんどん減っていく一方で、とくに若い世代の人口に「外国人」とされる人の占める割合がますます高くなっているのが現在の日本です。国籍、民族、宗教、言語など、それぞれに異なるバックグラウンドを持つ人々が共に暮らしているのがこの社会。自分にとっての「あたりまえ」が他の人にとっては違うことを意識し、調整を重ねていくことが幸せへの道だと言えるでしょう。

それなのに私たちの日常には、マイノリティへの差別的な仕打ちや対立をいたずらに煽るような動きが、政治に社会システム、メディアから個人の言動まで、さまざまなレベルであふれています。私自身もついうっかり誰かを傷つけてしまっているかもしれないけれど、2019年夏、うっかりではなく意図的に他者を攻撃する意地悪な人の声が大きくなっているようで、毎日暑いのに寒気がします。そこでおすすめしたいのが、マレーシアの映画監督ヤスミン・アフマドの作品です。

2009年に51歳の若さで亡くなってしまったヤスミン・アフマドは、監督としてわずか6年の活動期間に6本の長編作品を遺しました。大きくわけてマレー人、華人、インド人の3つの民族と先住民族からなるマレーシアは、イギリスそして日本の支配から独立して国家として成立し、今日まで歩んできた歴史があります。ヤスミン・アフマドは、そんな多民族・多宗教・多言語が共生する混成社会の現実と理想を描いた作品でマレーシアの人々に衝撃を与え、また愛されたのだそうです。一昨年、代表作にして遺作の『タレンタイム~優しい歌』(2009年)がはじめて日本で正式に劇場公開され、話題になったのを覚えているかたもいるでしょう。

こういうふうに言葉にすると、どうも生真面目な印象を与えてしまいそうだし、現在、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催中の「没後10周年記念 伝説の監督ヤスミン・アフマド特集」の宣伝にも優等生的な佇まいがあります。でも、どうかそこで「自分には関係ない」と思わないでいただきたい。今回、彼女の初の劇場用長編作品『細い目』(2004年)を観たのですが、それは見事な胸キュン青春恋愛映画で私は打ちのめされました。

2005年の東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞したにもかかわらず、これまで劇場公開されていなかったこの作品。ヤスミン・アフマド監督は、最初から肩肘張らずに楽しめるよう気を配るサービス精神に満ちているし、老若男女のかわいらしさを捉えて堂々とロマンティックなドラマを描く名手でした。雨の中でかぶるビニール袋のあざやかなピンク色、なんてことないファストフード店のポップな設えなど色彩も目に楽しく、「こんなにいいならはやく教えてよ!」と言いたくなります。

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最終更新:8/16(金) 20:51
GQ JAPAN

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