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<映画アドバイザー・ミヤザキタケル連載>得体の知れない恐怖体験をあなたに!結末が読めないホラー映画2作品【ザテレビジョンシネマ部】

8/16(金) 7:00配信

ザテレビジョン

映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。

【写真を見る】アカデミー賞脚本賞受賞の極上ホラー『ゲット・アウト』の1シーン

第6回は、共に観る者の心にジワジワと忍び寄り、正体を明かさぬままネットリと纏わり付き、得体の知れない新感覚の恐怖を植え付けてくる『ゲット・アウト』(8月25日夜9:00 WOWOWシネマほか)と『ヘレディタリー/継承』(8月18日夜9:00 WOWOWシネマほか )をマリアージュ。

■ 『ゲット・アウト』(2017)

9月6日(金)に最新作『アス』が公開されるジョーダン・ピールの初監督作品にして、第90回アカデミー賞脚本賞受賞作。白人の恋人の実家で週末を過ごすことになったアフリカ系青年クリス(ダニエル・カルーヤ)が、そこで想像もしなかった恐怖に遭遇する本作は、超低予算ながらも全米で大ヒットを記録!彼が直面するさまざまな出来事、周囲の不可解な言動、入念に張り巡らされた伏線が、あなたを異次元の恐怖へと誘う!

ネタバレなしで一体何を伝えればあなたに興味を持っていただけるだろう。序盤から伏線がちりばめられており、終局へと至る際、その全てが結び付く秀逸さ。何より「人種差別」という大きなテーマがバックグラウンドにあるからこそ、怖さ+重みのある作品に仕上がっている。そして、人間の心に宿りし狂気にこそおぞましい程の恐怖が詰まっていることを本作は示している。

恋人の家族と初めて会う時の緊張感、恋人の実家を初めて訪れた時のアウェイ感は、誰もが一度は味わったことがあると思う。主人公クリスが抱く不安。それは緊張感やアウェイ感ゆえのものなのか、それとも彼がアフリカ系であるがゆえに付きまとうものなのか、彼自身も観ている僕たちも断定し切れない。映画である以上、話がとんでもない方向へ進んでいくと分かっていながらも、身に覚えのある不安を見せつけられることで、彼が抱えるモヤモヤに同調できてしまう。恐怖の前触れを予知できてしまうホラー作品が多々ある中、本作にはそういった予定調和が一切ない。先読み不可能なストーリー展開とも相まって、何度も何度も度肝を抜かされることだろう。

日本人の僕たちは、人種差別のリアリティを抱きにくい。特定の人種を嫌う連中の心などいまひとつ理解できないし、そんな連中に怯える、差別される側の人々の気持ちを理解できるなんて軽々しく言えやしない。日本人では、クリスが感じる恐怖に真に寄り添うことは難しいのかもしれない。ただ、根っこの部分だけは理解できるはず。人より上に、他者より優位にありたいのが人間。同時に、自分より格下だと思える他者がいることで安心できてしまうのもまた人間。自分の方がマシだと思いたいがために弱者をつくる。「人種差別」と聞くと他人事のようにも思えるが、他者をおとしめようとする想いは、誰もがその胸に抱えるもの。無論、僕たちの心にも。

人からどう見られているか、どう見られたいか。何かしらの負い目があればある程に、その呪縛に陥りやすい。登場人物たちのそういった想いで本作は成り立っている。映画としては最高だけど、人に宿る嫌な部分がこの作品を誕生させた。それだけに、「ああ、怖かった」の一言では済ませられない怖さがそこには在る。ラストシーンは、人によってハッピーエンドにもバッドエンドにも取れると思う。あなたの場合は一体どちらになるだろう。

■ 『ヘレディタリー/継承』(2018)

サンダンス映画祭で絶賛され、全米を震撼させた、気鋭の映画スタジオA24製作、アリ・アスター監督作品。愛憎入り混じる祖母の死をキッカケに不可解な出来事に見舞われていく一家の姿を通し、理屈では推し量れない人の想いを描いた作品です。

『ゲット・アウト』を観ることで、既存のホラー映画とは一線を画した新感覚のホラー映画が今この時代に誕生していることをあなたは知ると思う。そういった作品群の中でも、本作は飛び抜けて頭がおかしい(褒め言葉)。が、『ゲット・アウト』によってある程度耐性ができたのなら、始まりから終わりまで終始得体の知れない怖さが漂い続ける本作にだって違和感なく入り込めるだろう。

異質なオープニングに始まり、ぶっ飛んだ描写ばかりで腑に落ちないことの連続だが、本作において確かなことが一つある。描かれているのは、家族の繋がりや人の想い。そういった理屈では推し量ることのできない目に見えぬ力の存在。非現実のファンタジーだと割り切ることなく観ていられるのは、誰もが知る家族の関係性が物語の下地に敷かれているからではないだろうか。関係がこじれたとしても、他人なら切り捨てれば良い。だが、家族だけはそうもいかない。血の繋がりだけはどうしたって切れやしない。

人の想いは、良くも悪くも他者の心に影響を及ぼすもの。そこにはらむ想いが善意であればプラスに、悪意であればマイナスに働く。言葉はただの言葉でしかないが、込められた念次第で大きく在り方を変えていく。スピリチュアル的な話をしたいわけではないが、たとえ姿形を失ったとしても、人の想いは「願い」や「呪い」となってこの世界に留まり続けるものではないだろうか。そして、本作で垣間見ることになるのは「呪い」の方。そういった念が登場人物たちの心を蝕み続けていく。思い込みや勘違いかもしれないが、目に見えぬモノの存在を信じざるを得ない事態が僕たちの日常にも訪れる。だからこそ、ぶっ飛び気味のストーリーであるにもかかわらず、日常の延長線上にある出来事だと信じられてしまうはず。

本作もまた、ラストシーンをどう受け止めるかはあなたの心次第。そもそもどちらであったのか考えることすら許されないかもしれない。劇中において巻き起こるすべての現象は、家族間の不和がもたらしたものであり、人の強い想いが成し遂げたこと。それだけは確か。

異形の怪物も、襲い来る殺人鬼も、規格外の人喰い鮫も最恐に怖いけど、一番怖いのは視認したり認識することのできない概念的な恐怖ではないだろうか。そんな恐怖が詰まりに詰まった2作品。是非セットでご覧ください。

■ ミヤザキタケルさんプロフィール

長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。(ザテレビジョン)

最終更新:8/16(金) 7:00
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