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速さではない、美しさのための自動車競技について──1台のアバルトとコンクール・デレガンス【後編】

8/17(土) 20:40配信

GQ JAPAN

世界でもっとも権威のあるコンクール・デレガンスである「ヴィラ・デステ」の2019年版でクラス・ウィナーとなった日本の紳士が所有する1台のアバルトとは? 2019年のコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステは、5月24日から26日にかけて開催された。後編をお届けする。

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自動車のビューティ・コンテスト

アバルト1000モノミッレGTが勝利した「クラスC」のカテゴリー・テーマは、「小さくて、完璧な形:コーチビルダーによるミニアチュア芸術」というものであった。このテーマ・コンセプトじたいに、主催者と審査員の、自動車の歴史と文化の本質に届く眼差しがあることがうかがえる。そして、ほかのカテゴリーにも同様に、機智とストーリーを忍ばせるテーマ・タイトルが付いていた。

たとえば1920年代のクルマ6台がエントリーしたクラスAは、「さらば狂騒の20年代:コンコルソの誕生」と銘打たれていた。大量の死をもたらした悲惨な第1次大戦後の、熱に浮かされたような好景気を背景に開花した享楽的な20世紀消費文化が想起され、そのなかで、コーチビルダーたちがこぞって、自動車美という新しい美を競い合っていた時代があったことを、それはほのめかしている。馬車に代わって登場した新時代の乗り物である自動車の美しさ、優雅さを争う競技としての「コンクール・デレガンス」という新種のビューティ&ファッション・コンテストが、欧米各地で次々にはじまった時代である。ほかならぬこの、コモ湖畔のグランド・ホテル、ヴィラ・デステのイタリア式庭園を主舞台にした「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」の第1回が開かれたのも、狂騒の10年間の最後の年、1929年の9月1日のことだった。そして、ニューヨーク証券市場のダウ平均価格が史上最高値を記録したのはその2日後のことであり、世界恐慌の引き金となった株価の大暴落が起きたのは、それから2カ月とたたない10月24日の木曜日だった。人はこの日を「暗黒の木曜日」(ブラック・サーズデイ)として記憶することになる。

ヴィラ・デステがヨーロッパ一華やかな最新車のビューティ・ページェントになるのはあっという間だったという。しかし、1930年代の終わりには、イタリアをふくめヨーロッパ各地ですでに戦争がはじまっていた。優雅なコンコルソは打ち切られた。暗い時代に求められたのは「武器」としてのクルマだったのである。そして、第1次大戦の大量死への反動でもあった享楽的生を狂おしいばかりに謳歌する時代は、次に控えていたより大量の死を準備して幕を閉じたのであった。

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最終更新:8/17(土) 20:40
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