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がん患者が笑顔で出ていく「がん哲学外来」という場

8/18(日) 7:32配信

デイリー新潮

 著名人ががんになった際には、治療法や回復の見込みなどの関連情報が多く報じられる。こうした情報はもちろん有益なものであるが、患者や家族が欲しているのは医学的な情報だけではない。

 むしろ多くの悩みは、「情報」では解消できないところにあるのだ。

 順天堂大学医学部教授の樋野興夫氏は、そうした悩みを解決ではなく、解消するために「がん哲学外来」という「対話の場」をつくった。そこには数多くの悩める患者や家族が訪れ続けている。そして、不思議なことに対話を終えた患者の顔には笑顔が浮かんでいるという。どのような対話がなされているのか。その一部を樋野教授の著書『がん哲学外来へようこそ』から引用して見てみよう。

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「いまだに気持ちが整理できません」

 相談者がどのような悩みを抱えて面談の場に現れるかは、私はお会いするまでまったくわかりません。予約の段階で聞いておくのは、名前ぐらいだからです。

 ですから最初は「どこのがんですか」と尋ねるところから始まります。

 椅子に座って待っている私のほうも、皆さんが思う医師には見えないかもしれません。 スーツ姿ではありますが、白衣も聴診器も身に着けていません。

 パソコンも、ノートも、ペンも持ちません。テーブルの上にはお茶だけ。

 それは、ここが対話の場だからです。

 私自身がひとつ心がけているのは「暇(ひま)げな風貌」です。人間だれしも、忙しそうにしている人に心を開いて会話しようとは思わないものです。ですからできるだけ暇そうな雰囲気で、脇を甘くして相談者を待っているつもりです。

 会場となるのは大学病院の一室のほか、自治体の医療センター、喫茶店、教会、お寺、医療用ウィッグ店、薬局などと様々です。私は予定がゆるす限り、どこへでも出張して面談を受けることにしています。

 相談にやって来る人で、何から話していいかわからない人も少なくありません。

 悩みや不安を抱えていれば、それは当然でしょうし、悩みはそもそも他人に話しづらいものです。そしてだれもが「がん哲学外来」は初めてです。

 たとえ「何も話すことはないんですが……」という一言で面談が始まるケースでも、「それでいいのです」と言って、私から質問してみると、ゆっくり話が始まります。

 その対話がいったいどんな様子かを分かって頂くために、すこし長くなりますが、ある日の男性とのやりとりをご紹介してみましょう。

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最終更新:8/18(日) 8:52
デイリー新潮

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