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塾代60万円の衝撃 大卒型人生モデルは継承もいばら道

8/18(日) 7:00配信

日経ビジネス

 日経ビジネス8月12日号特集「見直せ 学歴分断社会」では、同じ国に暮らしながら大卒者と非大卒者が交わりにくい分断の実情のほか、大卒であっても転落・困窮など苦難に直面するケースをまとめた。大卒型人生モデルはそれだけで決して安泰ではない。教育費をはじめ、都市での生活コストが家計の重荷になり、約5500万円の生涯年収の差が簡単に消えてしまう可能性さえある。

【図表】「学校」にかかるお金はどれくらい? 小中高校と大学の学習費

* * *

夫:「ちょっと、こんな金額だなんて聞いてないよ」

妻:「ずいぶん前に言ったはずよ。聞いてなかったわけ? そもそもあなた、全然、受験に協力的じゃないし」

夫:「今、その話は関係ないだろ。今言っているのはお金の話で……」

妻:「だいたいあなたは昔からさ……」

 東京都内に住むA夫妻の7月の食卓での会話を再現すると、こうなる。

 思わずヒートアップしてしまった会話のテーマは、小学6年の長男が通う「夏の塾代について」だ。大手進学塾での夏期講習の費用に加え、秋以降の特別コースに通わせるために必要な金額を合わせると、7月分で20万円弱、8月分で10万円強、9月分で30万強……。3カ月で実に60万円以上かかるという。

 結局、住宅ローン返済分を除き、夫の夏のボーナスをすべて塾代に回すことにした。

 A夫妻は共に地方出身で、大学入学に合わせて上京。故郷には戻らず、首都圏で暮らし続けている。日経ビジネス8月12日号特集「見直せ 学歴分断社会」で言及した「大卒型人生モデル」(大学を卒業した後、主に都市部で職を見つけ、単身世帯あるいは核家族を形成し暮らす人々)に属す。

 子供の受験戦争には「気づいたら巻き込まれていた」。小学6年の長男が通う公立小学校では、7~8割の生徒が中学受験をすると聞き、小4から塾に通わせたという。だが今、夫妻は教育費負担のあまりの重さに将来への不安を抱き始めている。

中学からずっと私立なら約1500万円

 図表に、小中高校と大学までにかかる学習費(授業料のほか、課外活動費などを含む)をまとめた。A夫妻のように、小学校は公立で、中学校から大学までの向こう10年間、私立に通った場合の学習費は1448万円。「人生の選択として何が正しいか」という問題はここでは控えるが、すべて公立で高卒だった場合、社会人になるまでの学習費は472万円、一方、小学校から大学まですべて私立だった場合は2171万円。ここにはおよそ1700万円の差がある。

 A夫妻の悩みを一段と深くするのは、これら学習費総額には、まさに渦中にいる中学受験のための塾代や大学受験のための予備校代、大学時代の下宿代は含んでいないという点。さらに長男の後には、現在小学2年の長女が控える。兄妹で差をつけるわけにはいかないので、ほぼ100%中学受験の道を歩むことになり、恐らくかかるお金は2倍に膨らむ。

 2018年の賃金構造基本統計調査から推計すると、60歳まで企業で働いた場合、高卒者の生涯年収(月収とボーナスの合算)は1億8400万円。大卒者は2億3900万円となり、生涯年収には5500万円のアドバンテージがあるとされる。ところが往々にして、都市部での生活コストは地方より高くなりやすく、バブルの指摘が絶えない住居費をはじめ、例えば地方に残した親と別々に暮らせば、介護や子育てなどでその分、費用が上乗せになる。

●生涯年収差5500万円のアドバンテージは消える?

 そして教育費。「大卒型人生モデル」は子供も大卒者にするケースが大半で、「より上質の大卒型人生を子供に歩ませたい」という思いも重なって教育に熱が入る。こうして膨らむ生活コストは、5500万円のアドバンテージをそぎ落とすであろうことは容易に想像可能だ。「老後資金が2000万円不足する」。そんな時代の到来に不安を抱くべきは、「大卒型人生モデル」の人の方なのかもしれない。

山田 宏逸、北西 厚一、大西 綾、白井 咲貴

最終更新:8/18(日) 7:00
日経ビジネス

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