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イタリアサッカー連盟の先駆者が明かす、データアナリストの仕事

8/19(月) 20:07配信

footballista

マッチアナリシスの未来

ホログラムやVRが活用されるようになるデータサイエンティストという新たな仕事


──選手たちはどうですか? 自分のプレーをビデオで分析したり、敵のプレーデータを参照したりする機会をどのように受け止めていますか。


 「ほぼ全員が自分のプレーを分析したビデオを求めますね。特にDF、加えて何人かのMFは敵アタッカーの分析にも大きな注意を向けています。

 全体的な傾向として、アタッカーはそれほどこの側面に注意を払いません。ポジションによって、ピッチ上の振る舞いや認識には違いがあると思います。アタッカーは自分の才能とテクニックによってピッチ上の状況を解決できると考えている。反対にDFやMFはコレクティブな側面により敏感です。幸運なことに、自分が一発決めてやるという反射的な本能は、特にアタッカーにとっては根本的な重要性を持ち続けるでしょう。他のポジションの選手たちに関しては、戦術的な文脈を分析し理解するプロセスはますます重要になると思います。最後のところでは本能や直観に従って決定機を作り出しそれを決めるとしても、そこに至るまでの過程においては、状況を読み取り、冷静に評価・判断する能力を磨くことが、どんなチームにとっても不可欠です。

 A代表では、ユベントスのDFたちがこの側面に最も大きな注意を払っています。おそらくそれは、ある種のトレーニングメソッドに慣れているからでしょう。若い選手たちに、対戦相手や自分たちのパフォーマンスを研究・分析することの重要性を最も強く説いているのも彼らです。彼らが示す模範は、欧州カップ戦に出場しないようなクラブでプレーしている、経験の浅い選手たちにとってはすべてと言っていいほど重要です。トップレベルの選手が、自由時間を対戦相手のビデオを見たり分析レポートを読むことに費やしているのを目の当たりにするわけですから」


──FIGCという立場から客観的に見て、イタリアのクラブの状況はどうですか。セリエAのほとんどのクラブはマッチアナリストをスタッフに加えているのでしょうか。


  「イタリアの状況はそれほど悪くはありません。FIGCもここ数年、ある種の変化を後押ししてきました。ユベントス、インテル、ローマといったトップクラブは、ヨーロッパのライバルたちと比べても遜色ない体制を整えています。

 しかし全体の平均レベルはまだまだ上がる余地を残しています。マッチアナリシスの体制を十分に整えているクラブは、まだそれほど多くない。イングランドでは17-18シーズンに降格したストークですら、トッテナムやマンチェスター・シティと変わらないレベルのマッチアナリシス部隊を持っていました。イタリアでは、最もイングランドのレベルに近いユベントスの体制は、中堅以下のクラブのそれとは大きな差があります。

 トップクラブを除く大半のクラブは、監督のスタッフにマッチアナリストが加わっています。それは監督たちがその重要性を認識しているからです。それが不足しているのは、クラブのマネージメントレベルです。バイエルンは2017年だけで200万ユーロをマッチアナリシス部門に投資しました。イタリアで最も多くを投資しているクラブでも、おそらくその10分の1程度の数字でしょう。

 無視するわけにいかないのは、クラブのマネージメントレベルで人事の継続性が低くなっていることです。以前なら、ゼネラルディレクター(GD)やスポーツディレクター(SD)は5年、10年同じクラブで仕事をしたものでした。しかし今日のGDは任期が短く、極端なケースでは5カ月や10カ月しか持ちません。そういう立場に置かれたGDは、マッチアナリシス部門や育成部門への投資に興味を持ちません。すべての資本をトップチームの強化に投下して、目先の結果を追求しなければならないからです。彼のキャリアを保証してくれるのはそれであって、長期的な視点に立ってクラブの体制を整えることではありません。マネージメントレベルで人の動きが少ないクラブがピッチ上でも安定して結果を残しているのは、決して偶然ではなく、彼らが蒔いた種を時を経て収穫しているからです。

 マスコミの仕事は私たちの助けになります。『ウルティモ・ウオモ』の分析データを活用した戦術分析記事は、ある種のカルチャーを普及するのに役立っています。全国ネットのTV 局も同じような取り組みを始めれば、さらに大きな後押しになるのでしょうが」


──マッチアナリシスの未来をどう見ていますか。


 「視覚的な側面はまだまだ向上するでしょう。近い将来、データをよりわかりやすくリアルに見せるために、ホログラムやVRが活用されるようになると思います。VRに関しては、イングランドでプロトタイプを見せてもらいました。イタリア代表にも導入するべく準備しています。

 基本となる考え方は、選手たちが試合でのプレーを敵味方との距離感も含めて主観的に追体験できるようにすることで、認知と判断のプロセスを向上させようというものです。VRがもたらす学習効果は、ビデオと比べても明らかに優れています。

 同時にマッチアナリストという仕事もさらに進化して、活動の場もオフィスからピッチにより近づくでしょう。ドイツの例を出して説明したように、分析とトレーニングの準備は、今後さらに統合されていくに違いないからです。

 以前、イタリア代表ではどんなふうに仕事をしていたか、一例を挙げましょう。木曜日には、伝統的なやり方に従ってU-18とのトレーニングマッチを組んでいました。アンダーの監督には、次の試合はクロアチアとやるから同じ[4-3-3]でやってほしい、と要望するだけにとどまっていました。

 しかしある時点から、U-18にクロアチアの分析ビデオを見せながら説明するようになりました。同じ[4-3-3]でも彼らのそれには特徴があったからです。右ウイングのペリシッチは頻繁に中に入って来る。当時のクロアチアは左サイドに本来セカンドトップのオリッチを、その背後のSBには非常に攻撃的なタイプを起用していました。つまり、U-18を一般的な[4-3-3]ではなく、クロアチアという特殊事例に合わせた[4-3-3]で戦うように準備したのです。こうした形での分析とトレーニングの統合は、今後さらに進んでいくでしょう。

 データはもはやあらゆるレベルに入り込んできていますが、収集の方法は手動でのタグづけから、NBAのようにビデオトラッキングと統合されたシステムに変わっていくでしょう。具体的に言えば、毎秒24回のサンプリングによって取得される位置情報とイベント単位のタグづけによるテクニカルな情報が統合されるということです。この統合によって新しいタイプのデータ、例えば距離を基準とするデータが出てくるでしょう。ゲーゲンプレッシングやダブルマーク、スペースを作り出すためのフリーランなどが定量的に計測・評価できるようになるはずです。

 データ収集方法の革新は、客観的なデータと主観的な戦術評価との統合にも繋がっていくでしょう。当然の結果として、試合分析、対戦相手分析、個人のプレー分析、そしてスカウティング、すべての領域でデータの重要性が高まっていく。

 この分析データの進化は、マッチアナリストの仕事の領域も変化させるはずです。マッチアナリストはビデオ分析を中心とする戦術分析に特化すると同時に、アナリシス部門を統括する立場になる一方で、統計データの分析を専門に扱うデータサイエンティストというより専門性の高い仕事が新たに発生してきます。すでにイングランドではそういう流れになっています。これに適応できなければ、この世界で生きて行くことは難しくなるでしょうね。データの積極的な活用をサポートしようとしない、あるいは妨害するようなタイプのディレクターたちは、今や絶滅が確定した恐竜のような存在だと言うべきでしょう」

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最終更新:8/19(月) 20:07
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