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【インタビュー】奥本大三郎(作家、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」館長・75歳)「研究成果は楽しい読み物で社会に伝える。ファーブルのおかげでそう決意しました」

8/19(月) 15:02配信

サライ.jp

【サライ・インタビュー】

奥本大三郎さん
(おくもと・だいさぶろう、作家、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」館長)



ファーブル昆虫館「虫の詩人の館やかた」(※東京都文京区千駄木5-46-6 電話:03・5815・6464(開館時のみ)、開館:土曜・日曜の13時~17時、入場料:無料)ではファーブルの生家を再現。同時代の家財道具も展示。奥本さんが着用している帽子とコートもファーブル愛用のものと同じ。

――『ファーブル昆虫記』を完訳。虫の視点で文明を観察――「研究成果は楽しい読み物で社会に伝える。ファーブルのおかげでそう決意しました」

※この記事は『サライ』本誌2019年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。(取材・文/鹿熊 勤 撮影/宮地 工)

──虫が苦手だという若者が増えました。

「増えましたねえ。大半がそうじゃないでしょうか。今は虫が好きだなんていうと学校でいじめられることさえあるそうです。もはや変人扱いですね(笑)。以前、東京の古書店街の神保町を歩いていたときです。宝くじの宣伝をしている女の子がいたんですよ。笑顔でビラを配っていたんですが、突然キャーと叫んでしゃがみこんだ。なにごとが起きたのかと思ったら、帽子に赤トンボが止まったんです。“君のほうが気持ち悪いよ”と言いたかった」(笑)

──なぜ今、虫はこうも嫌われるのでしょう。

「ゴキブリ、ハエ、ハチ、毛虫。そういう衛生害虫や危険害虫と、トンボ、チョウ、カブトムシのような遊びの対象となる虫は、我々が子供の頃は本能的に見分けたものです。しかし、今はその本能的なものが失われてしまった。“とにかくぞっとする”“どれも気持ちが悪い”と虫をそもそも見ていない。

平安時代の『堤中納言物語』に、虫愛づる姫君という話が出てきます。ある貴族に美しい娘がいた。当時のおしゃれだった眉の手入れやお歯黒に関心がなく、イモムシ、毛虫のような虫を飼って楽しんでいる。奇矯な振る舞いを忠告する周囲に彼女はこんな意味のことを言います。“この毛虫が、皆さんが美しいともてはやすチョウになるのですよ”、と」

──価値観の本質を突くような話ですね。

「確かに、昔も虫の苦手な人はいたでしょう。でも、現代人の虫嫌いはもはや同調圧力というか、集団ヒステリーの域にあります。病的な潔癖症と言ってもいい。潔癖さは精密工業のような分野では優れた力を引き出しますが、多様性のような考え方とは相容いれないのです。

最近の虫アレルギーは、戦後社会の価値観の投影だと思います。例えば人間が食料を依存している農業の世界。花を訪れて受粉を助けたり、害虫を捕食してくれている虫もたくさんいるのに、虫は人の生活に悪影響を及ぼす存在でしかないとばかりに、農薬で駆逐してしまう。今は日本中どこへ行っても虫が減っています。土壌微生物のレベルから生態系が崩れ始めているのだと思います」

──ここ「虫の詩人の館」ではどんな仕事を。

「館長職を拝命しています。自宅を建て替えて開館し、自分で拝命しました。おかげでお金の心配ばかりです(笑)。虫の詩人の館には3つの役割があります。ひとつは子供たちが虫と遊ぶことを通じ、自然全体の仕組みについて理解を深める機会をつくる。つまり虫嫌いな日本人をこれ以上増やさないための活動です(笑)。採集、標本づくり、飼育などの教室を、昆虫好きの仲間と開いています。

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最終更新:8/19(月) 15:02
サライ.jp

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