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話題の映画「イソップの思うツボ」の3監督が語る令和時代の映画作りのツボ

8/19(月) 18:10配信

@DIME

個人と個人がつながり、個人が発言しやすくなっている時代に作り手は何を想う?

 制作費約300万円にもかかわらず、観客動員数220万人、興行収入31億円を突破し、2018年にはDIMEトレンド大賞 レジャー・エンターテインメント賞を受賞した映画「カメラを止めるな!」(監督:上田慎一郎)は、映画作品としての評価のみならず、スマホ&SNS時代における新しいトレンドの作り方としても大きな話題となった。実は、この作品の助監督を担当し、Abema TVでオンエアされた「カメラを止めるな! スピンオフ『ハリウッド大作戦!』」でメガホンを握った中泉裕矢、そして「カメ止め」ではスチールを担当した浅沼直也、そして上田慎一郎の3人は、「カメ止め」のヒット前に一緒に監督を務める長編映画を作ろうという“無謀”な企画を進めていた。その構想は、2016年秋から本格化し、途中で「カメ止め」の大ヒットという“ハプニング”があったものの、約3年の熟成期間を経て、いよいよ公開される。それが、8月16日(金)から全国ロードショーされる「イソップの思うツボ」である。

友だちはカメだけの内気な女子大生・亀田美羽を演じる石川瑠樺

 すでにTwitterやインスタグラムのハッシュタグなどで情報が出始めているので、何やら面白いことになるらしい雰囲気は感じている方も少なくないはず。@DIMEでは、本作のマスコミ試写会がスタートした6月下旬に3監督同時インタビューを行なうことに成功したので、そのときの様子をお届けする。

【個人と個人がつながり、個人が発言しやすくなっている時代】
--マスコミ試写会が満席となり、別部屋でのDVD試写も満席になるくらい話題のようですが、令和を担っていく新世代の作り手が、いまの時代をどんな風に感じているか、というところから、お話を聞かせてください(聞き手は、ライター・橋本 保)。

中泉裕矢監督(以下、中泉):いま映像の世界も多様化が進み、映画のほかにもYouTubeやニコ生などもあり、作り手も意識せざるをえないので、いろいろなものを見なきゃいけません、そういう時代なのかな、と。

上田慎一郎監督(以下、上田):選択肢が多い一方で、ヒットした作品を意識しているような面もあるのかな、と。で、結局、多様性とは逆になっちゃうような。ヒットから学ぶことはありますが、その逆に進むとか、違う方向に進む力がないと、結果を出せない感じがしています。まぁ、結局は、自分の好きなことをやるしかない。自分の好きなことを信じ、かつ、作家性を残しながら同じことをしないようにする、そんなことを思っています。

浅沼直也監督(以下、浅沼):いま「一億総ツッコミ時代」と思うんです、、、ん? なんか結構、残る言葉を言おうと思ってるんですけれど、、、

中泉:パワーワード??

浅沼:僕、芸風としてすべり芸なんです!

--大丈夫です、スベってません。どうぞ、続けて下さい

浅沼:はい。で、いまって(インターネットやSNSなど)技術的な革新で、個人と個人がつながり、個人が発言しやすくなっている時代ですよね。それがゆえに、同調圧力なんかも働いていて、昔ならバカなことを言ったり、やったりすることで、意外と世界を動かしてきたこともあるけれど、いまは、目立つ人にツッコミを入れていくことのほうが、重要視されている気がします。それが社会全体にあって、息苦しさみたいなものはあるような気がします。出る杭は打たれるっていいますが、いまは杭を打つ数が増え、打たれる様子が見えやすくなっている感じがする。そういうなかで、作品を発表するのは、ある種覚悟が必要だな、と思いますね。

映画監督のようなクリエーターに、他者を受け付けないような印象を持つ方は少なくないかもしれないが、このインタビューでは、非常に和気あいあいとした感じでやり取りが進んでいく。そして、話はネット空間なども含めた世間の反応などに展開していくが、必ずしも3人の意見が同じになるわけではない。

【作り手は解釈を説明すべきなのか?】
--とはいえ、作品を作って世に送り出すって、エネルギーがいることですよね。称賛もあれば、ツッコミもある。それがダイレクトに届く時代って、大変なのかな、と思いますが。

上田:エゴサーチをすると、すごい感想がね、、、

--エゴサーチするんですか?

上田:しますよ、はいww

中泉:上田さんは、めちゃくちゃしますよ

上田:「カメ止め」のときにも、良い意見もあれば、ぜんぜんダメという意見もあったんですけれど、自分が全力を出し切った作品で、(こういう反応なのだから)それはしょうがないなって、思うようになりました。見てくれた人の全員が面白いと思うものを作れるってことはないんやろうな、と気づきましたし

中泉:どちらにしても反応があるのはうれしいじゃないですか、ないよりは

上田:ただ、怒っている人がいるんですよ、「なんで、これを面白いって、いうんだ、みんな!」って。つまり、怒るエネルギーを起こしているんだなぁ、と思いましたww

中泉:解説をせざるを得ない感覚はありますかね。「この作品、どういう意味ですか?」とか言われたときに、見てもらえばと言うんですけれど、何か言わなきゃ、いけない空気というか。聞かれる環境ができすぎているというか

浅沼:わかりやすさを求めてるような気がします。「2001年宇宙の旅」について、スタンリー・キューブリックが、「解釈はお前たちにまかせる」と言ったので、がんばって解釈することが映画体験として面白かったという感じはなくなっている気がします。わからないことに対して、拒絶感がある気がする。

上田:それは今に始まったことじゃないと思います。若者が閉塞感を持っているとか、わかりやすさを求めているっていう話って、(僕は)いつまで言っているんや、って感じもします。いまの若者は、そんなにずっと閉塞していないよと思うから

--そういうことを言うのって、若者の周りにいる大人のほうですからね

上田:おれの周りの若者は別に閉塞感を感じてないし、わかりやすさを求めるとかいう話も、そうなのかなと思いますよ

--中泉さん、浅沼さんのお二人は、作品について説明していくというスタンスである一方、上田さんは違う。まぁ、スタンスが違うのは三人の映画監督がいるから当然ですよね。ちなみに今回の「イソップの思うツボ」については、どうなんでしょうか?

浅沼:これは、家族の仲はよいけれど、、、(と映画について説明を始める)

上田:ちょっと、ちょっと! 浅沼さんは、解釈を楽しめといっておきながら、説明をしてるよ

浅沼:いや、(映画監督が説明を)すべきではないとは、言ってないよ

上田:いやいや、

浅沼:(映画監督が説明を)したほうがいいと思っています。まずは、説明を尽くして、伝えたい気持ちが大切だと

(意見が分かれて、ぐちゃぐちゃになっている様子を見て)

中泉:(映画監督が)3人いるなぁ~

 こんなやり取りからも窺い知ることができるように、非常に和気あいあいと楽しいムードに包まれながらも、自分の考えはしっかりと主張する。3人の映画監督がいることで、才能が混じり合ったり、混じり合わなかったり。そうしたところが、作品に独特の緊張感を生んでいるのかもしれない。

【3人監督はすごく怖かった】
中泉:もともとは、2015年に公開したオムニバス映画「4/猫 ねこぶんのよん」で3人プラス、もう一人で作品を作ったんです。で、もう一度、一緒にやりたい、次は長編ってことで、じゃあ3人で監督をやったら面白くなるんじゃないかってスタートしたのが、この映画(「イソップの思うツボ」)を3人監督でやろうとしたきっかけなんです。

上田:映画って、約100年の歴史があるので、普通に作ったら、どこかにあるものになっちゃうけれど、作る体制自体に、いままでにない負荷をかけて、制作陣が「これって、大丈夫? 怖いな」と思うようなイレギュラーなものが入ることで生まれるものがあると思うんです。だから3人監督って、すごく怖かったんですけれど、、、

--その怖いって、どういう感覚ですか?

上田:だって、普通に監督すれば、一人ですべて判断できるけれど、(3人だと)ぶつかって大変だろうな、と。でも、その大変さが、たぶん映画に残って、自分ひとりでは作れないものが出来るだろう、って。この経験は、これから一人で監督をするときにも持ち帰れるものが出来たし、良かったと思っています。結構周りには言われましたよ、(ぶつかり合うから)絶対にムリでしょ、というのと、それで面白くなるの? とか

中泉:(3人監督でやることに)好意的な意見は少なかったです。ぶつかり合っちゃうから分散しちゃうでしょ、と。そんなことばかり、言われていましたね

浅沼:いま高校生に映画を教えているんですけれど、映画自体に興味あるコとないコにはっきりとわかれるんです。でも撮影は、面白がっていた。シーンを演出するのに、相応に責任がついて回るので、コミュニケーションが大事になる。映画の仲間ってクルーっていいますよね。やっぱりクルーに選ばれるコミュニケーション力は付くと思うので、(3人監督など複数監督は)いいシステムだと思います。

いま日本は、世界に先駆けた課題先進国で、そこにイノベーションの源泉があるといわれながら、そのチャンスを活かしきれていないという指摘も少なくない。インターネットやスマホの登場で、ますます栄枯盛衰が激しい映像メディアの世界で、映画は何度も試練を乗り越え、ファンの心を捉えて離さない。3人の映画監督で作品が作れるのか? そんな常識的な考えを跳ね返し、新しい挑戦をするから、新境地が拓ける--今回のインタビューを通じて、そんなことを感じることができた。

 では、その作品は、どうか? その答えは、自分で確かめ、SNSなどで発信してみていただきたい。

「イソップの思うツボ」公開中
製作:埼玉県/SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ
脚本:上田慎一郎 共同脚本:浅沼直也、中泉裕矢 監督:浅沼直也、上田慎一郎、中泉裕矢
キャスト:石川瑠華、井桁弘恵、紅甘、斉藤陽一郎、藤田健彦、高橋雄祐、桐生コウジ、川瀬陽太、渡辺真起子、佐伯日菜子
制作・企画:デジタルSKIPステーション
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
配給:アスミック・エース

取材・文/橋本 保 撮影/竹崎恵子

@DIME編集部

最終更新:8/19(月) 18:10
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