ここから本文です

漫画『キングダム』から見える中国大陸の「原理」とは?

8/19(月) 6:20配信

週プレNEWS

紀元前3世紀。中国の戦国時代を舞台に、大将軍を目指す主人公・信(しん)と、中華統一を夢としてかかげる嬴政(えいせい・のちの始皇帝)を描く漫画『キングダム』。単行本は現在までに55巻が刊行され、累計発行部数は4500万部を超える超人気作品だ(2019年8月現在)。

【『キングダム』より】王騎将軍&趙の舜水樹

専門家はこの作品をどう見るか? 全巻を読破しているという愛読者で、『始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎』(集英社新書)の著者である、古代中国の思想が専門の早稲田大学理事、文学学術院教授の渡邉義浩氏に話を聞いた。

■王騎将軍が象徴しているもの
――最初からずばりお聞きしますが、古代中国の専門家から見た『キングダム』の魅力とは一体どこにあるのでしょうか?

渡邉 数千年にわたる中国史の中で大きな変革期がいくつかあるのですが、『キングダム』の舞台である春秋戦国時代はその第一期目に当たります。戦国時代の中国には七つの大国がひしめいていて、その国内には王以外の有力者が大勢いるのが普通でした。そんな状況から、王ひとりの下に権力が集中していく体制に変わっていく。もっともそれに成功したのが秦です。

難しい話だと思うかもしれませんが、『キングダム』読者にとっては簡単です。王騎将軍をイメージしてください。二代前の秦王に仕えた「六大将軍」の最後のひとりで、不思議な口調の、あの人です。彼は大きな城を持ち、領民を支配し、私兵を養っていました。独立性が高く、王に対しても独特の発言権がある。



国内に大勢いる「王以外の有力者」とは王騎将軍のような人です。昔の秦には、ああいった独立性の高い将軍が他にもいたんですね。将軍だけでなく、王の弟や叔父といった王族たちも、それぞれ領地を持って自分の兵を養うのが一般的でした。

――独自の権力を持つ有力者が国内に大勢いて、その中で一番強い権力を持っていたのが王だった......ということですか?

渡邉 そうです。国内の有力者が結集したら王も敵わない。したがって、王も有力者に配慮した政治を行なわざるをえない、という状況でした。特に凄かったのが楚という国ですね。楚には1000人を超す王族がいたと思われます。

ところが、秦だけは一大政治改革を断行して、功績のない有力者の優遇をやめます。戦場で手柄を立てないと、王族であっても領地を召し上げられてしまう。功績のない将軍も同様です。そうして没収された領地は王のものになる。

つまり、国内の有力者のパワーを削いで、王ひとりが強い権力を持つような体制に変えていったのです。これを「氏族制社会の解体」といいます。

――秦では、功績のある人物しか広い領地を持てないようになっていた。王騎は多くの手柄を挙げていたから、昔の有力者のように大きな城に住んでいたんですね。

渡邉『キングダム』ではそのように描かれていますね。漫画を読むと、王騎以外であれほど大きな領地を持つ秦の将軍は登場しない。作者の原さんは、秦の社会体制を知っていてあのような描写をしたのだと思います。「古い世代」の象徴として王騎を描いたのでしょう。

対して、主人公の信は「新しい世代」の象徴です。彼は手柄を挙げて、百人将、三百人将、五百人将、千人将、五千人将......と、どんどん出世していきますよね。政治改革後の秦では、身分が低くても手柄を挙げれば出世できるようになっていたからです。

古い世代の将は独立性が高いですが、新しい世代の将は王に忠誠を誓います。戦場での働きを王に認められたために、現在の地位があるわけですからね。『キングダム』では、王賁(おうほん)や蒙恬(もうてん)といった信のライバルたちの活躍も出てきますが、彼らが手柄を挙げることは、王である嬴政のパワーが増すことを意味するわけです。

このような「氏族制社会」の解体を徹底して行なったのは、「戦国七雄」の中でも秦だけでした。結果的に、これが秦の中華統一の原動力になったのです。

1/4ページ

最終更新:8/19(月) 6:20
週プレNEWS

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週プレNEWS

集英社

No.39-40
9月14日(土)発売

特別価格500円

原発は津波の前に壊れていた/急増確実!「
店外食い」の作法/堂本光一、13年ぶりの
ホンダF1優勝記念対談【グラビア】安達祐
実/小池美波/高崎かなみ/伊藤美来 他

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事