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市職員が飲酒運転で3人の子供が死亡 殺人運転の一部始終

8/20(火) 7:28配信

FRIDAY

悪質なあおり運転が取り沙汰されているが、2006年には、福岡で飲酒運転による凄惨な事故が発生していた。犯人は、3人の子供が死亡した事故を起こしただけでなく、被害者の救済をすることなく飲酒の証拠隠滅を行うなど、信じられないものだった。犯行の一部始終を小野一光氏がレポートする。

2006年8月25日の夜に発生した、”福岡3人死亡飲酒運転事故”の現場となった、福岡市の『海の中道大橋』を取材で訪れた際、衝突の衝撃で大きく破壊されたガードパイプと、被害車両が落下した海面からの高さに、思わず言葉を失った。

この事故は、福岡市西区にある福岡市西部動物管理センターで働く福岡市職員の今林大(逮捕時22)が、居酒屋とスナックで飲酒後に自家用車を運転し、同橋を走っていた家族5人乗りのRV車に追突。家族の車はガードパイプを突き破って約14m下の海面に転落し、乗っていた4歳の長男と3歳の次男、さらに1歳の長女が死亡したというもの。

友人の福岡県警担当記者は言う。

「33歳の父親と29歳の母親が転落した車から車外に脱出した後、母親が何度も海に潜って、沈んでいく車内に残された子供たちを助け出そうとしました。3歳の次男と1歳の長女は海面で立ち泳ぎをする父親に手渡せたのですが、4歳の長男を車から出すことはできなかった。現場では『子供がもうひとりいるんです』と父親が救助隊員に叫び、母親も長男の名前を叫び続けていたそうです。結果、後になって3人の子供たち全員の死亡が確認されました」

海上が修羅場と化している一方で、今林は現場から逃走を図ろうとした。しかし、運転していた車は大破しており、約300m走ったところで走行不能となった。彼はそこで数人の友人に電話をかけ、身代わりの出頭を求めたが断られている。さらに中学時代の同級生である大学生A(22、後に証拠隠滅容疑で逮捕)には、ペットボトルに入った水を持ってくるように依頼。彼が持ってきた水を約1ℓ飲んで飲酒検知の数値を下げようとしていた。

そのように証拠隠滅を企てた末、事故から約40分後に衝突現場へと戻ってきた今林は、業務上過失致死傷と道路交通法違反の容疑で逮捕された(起訴された際は危険運転致死傷罪と道路交通法違反)。

この”事件”の発生を受け、今林の犯行に至る流れを取材したところ、とんでもない行動が浮かび上がってきた。

その日、午後5時に仕事を終えた今林は、帰宅後に父親とフグ鍋を食べながら、缶ビール1本と焼酎のロックを3杯飲んでいる。さらに午後7時頃からは居酒屋で、中学時代の野球部の後輩であるタイル職人B(20)と、実家が近い先輩男性C(32、後に飲酒運転ほう助の道路交通法違反容疑で逮捕)らとともに飲んでいた。同店の関係者を取材したところ次のように語る。

「3人で生ビールを4杯、焼酎のボトルを1本空けています。みんなはしゃいでいて、声がやたらと大きく、他の客の迷惑になるから注意しようと思ったほどでした。年上の男性(C)の印象はあまりないですが、年下の男性(B)は、やたらみんなにペコペコしている感じでした。支払いもこの年下の男性がしたのですが、所持金が足りなかったらしく、先に店を出ていたふたりを慌てて呼びに行ってました」

午後9時半頃に居酒屋を出た今林は、BやCとともにタクシーで、自家用車を停めた自宅近くの駐車場へと向かう。彼らを乗せたタクシー運転手は証言する。

「車内でなにを話したかは憶えてないけど、車に乗ってすぐに冗談めかして『500円で行ってよ』とかって言ってましたから、あまりカネがなかったんじゃないでしょうか」

やがて駐車場に着いた今林は、通勤に使っている父親名義の車を運転してBやCと行きつけのスナックへと向かう。そこではブランデーの水割りを飲みながら、カラオケを10曲ほど歌っていたことがわかっている。

そこで「ナンパをしに行こう」とBに提案した今林は、10時40分頃に店を出ると、BとCのふたりを乗せて車を運転。まずCを彼の自宅近くまで送り届け、福岡市中心部へと向かおうとした。

今林が運転する車は時速100㎞近くスピードを出しており、後の裁判では走行中にBが今林に対して、「いつもこんなに飛ばすんですか?」と尋ねたところ、「いいや、飛ばさん」との返答を最後に会話が途絶え、その約10秒後に衝突していることが明らかになった。

衝突後の今林は、反対車線にはみ出した自分の車を自車線に戻し、アクセルを踏み込んで逃走しようとしたが、左前輪がパンクしており、エンジンルームが大破していたため、それは叶わなかった。やっと車が停車して、Bから「どげんなったんですか?」と聞かれるも、「俺にもわからん」と答えている。一方で、自分の車が後続車に追突されないようにハザードランプをつけており、さらに自分ひとりが車に乗っていたことにしようと考えて、Bにその場から逃げるよう指示。Bは事故現場から徒歩で立ち去っていた。また、事故を起こした今林が友人らに電話をかけた際、心配したひとりの友人が、とりあえずその場に向かうことを口にすると、「事故を起こしたっちゃん。事故した相手がおらん」と話していたこともわかっている。

結果として今林は、3人が死亡するという甚大な被害を生じさせたことと、過去にも飲酒運転を繰り返していた疑いがあるといった犯情の悪さから、危険運転致死傷罪などで起訴された。やがて始まる公判前に私が今林の実家を訪ねたところ、対応した祖母は玄関口で涙ながらに語った。

「両親が毎日のように面会に行っとるんですけど、(今林)大は泣いて謝ってばかりいるそうです。私にも手紙が2回ほど来よりましたが、『ばあちゃん、ごめんなさい』と謝っとる内容でした……」

後に行われた裁判では、一審の福岡地裁は業務上過失致死傷罪のみを認定し、懲役7年6月の判決を下した。しかし、検察側と弁護側の双方が控訴。二審の福岡高裁は危険運転致死傷罪を認定し、懲役20年の判決を下した。さらに今林の上告を受けた最高裁は、11年10月に上告を棄却する決定を出し、懲役20年の判決が確定したのだった。

この事件をきっかけとして、飲酒運転に対する罰則が強化されることになったのである。

取材・文:小野一光
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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最終更新:8/20(火) 11:55
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