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映画『永遠に僕のもの』:美貌の殺人鬼を演じたロレンソ・フェロは大の日本好き

8/20(火) 16:30配信

nippon.com

渡邊 玲子

8月16日より公開中の映画『永遠に僕のもの』は、アルゼンチン犯罪史上最も有名な殺人犯の物語。その残忍さとはおよそ結び付かない美貌に人々が魅了されてしまったという実在の人物だ。そんな「天使のような悪魔」を見事に演じて「南米のディカプリオ」の称号を得たロレンソ・フェロを来日中に直撃した。

1972年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで凶悪事件の犯人が逮捕された。男の名前はカルロス・ロブレド・プッチ。罪の意識などみじんもないかのように平然と強盗や暴行を繰り返し、2年足らずの間に11人を殺害した。事件が脚光を浴びたのは、犯行の残虐性からだけではない。犯人の20歳という若さに加えて、その並外れた美貌に人々は図らずも夢中になったのだ。

ブロンドの巻き髪と大きな瞳、白い肌に赤く濡れた唇。メディアから「黒い天使」と呼ばれた童顔のモンスターに人々は熱狂し、警官までもが「まるでマリリン・モンローのような美しさだった」と嘆息したという。逮捕から8年後、1980年に終身刑を宣告され、いまなおアルゼンチンの刑務所に収監されている。

そんな同国犯罪史上最も有名な男の半生に着想を得て、ポップで刺激的なエンターテインメントの要素を加え映画化したのが、1980年生まれの新鋭ルイス・オルテガ監督だ。プロデューサーに『トーク・トゥー・ハー』でアカデミー賞脚本賞を受賞したペドロ・アルモドバルとその実弟アグスティンが名を連ねる本作は、第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、アルゼンチンでは2018年のNo.1ヒットを記録。日本では『永遠に僕のもの』というタイトルで、8月16日から劇場公開されている。

6月下旬、映画の公開に先駆けて来日した主演のロレンソ・フェロにインタビューする機会を得た。実在するカルロスをモデルにした主人公「カルリートス」に扮し、その妖艶な魅力で人々を熱狂させた20歳。映画デビュー作とは思えぬほどの存在感をスクリーンから放ち、ハバナ映画祭主演男優賞をはじめ、海外の映画祭で数々の賞に輝き、「南米のレオナルド・ディカプリオ」「次のティモシー・シャラメ」と世界から注目を集めている。

「そりゃ悪い気はしないよ。でもルックスはあくまで表面的なこと。シャラメやディカプリオは尊敬しているけど、またかという思いもある。南米の俳優はいつだって北米の俳優と比較される運命にあるからね。だって、ティモシー・シャラメに『ロレンソ・フェロに似ていますね』とは言わないでしょ?」

こうした物怖じしない態度は、ロレンソが演じた役柄とも相通じるところがあるかもしれない。カルリートスは、鍵の開いた窓からするりと豪邸に忍び込むと、まずはレコードをかけて軽やかに1曲踊ってから高価なジュエリーを頂戴し、盗んだバイクで帰る、という大胆不敵な人物として描かれる。

「いたずら好きで、人生を遊びととらえているところは、僕とカルリートスに共通点はあるかもね。実在したカルロスについては、僕らの世代はそこまでよく知らないんだ。調べてみたけど、醜い容姿が犯罪の誘因になるとされた“ロンブローゾの理論”を覆した人物、とまで言われたらしい。カルロスは中流階級の出身で、比較的良い家庭環境で育っていた。外見や社会的な背景と、犯罪者になることに相関関係がないことを、世の中に思い知らせたんだ。ロックスターのような華やかさもありながら、犯罪を繰り返すクレージーな人だね。誰しも心の奥底に破壊願望は持っているだろうけど、彼ほど自制が働かない人が世の中にいるとはね!盗みが目的だったわけではなくて、生きているという実感を味わうためだけにやっていたんだと思う」

そう話すロレンソ自身も、あふれるエネルギーを放出するかのように、取材中もプレス資料やチラシにいたずら書きをするなど、片時もじっとしていない。役者にとどまらず、「Kiddo Toto」の名前でラップシンガーとしても活躍中だ。「今後挑戦してみたいこと」について訊ねると、次から次へと願望が口から飛び出した。

「これからも世界中を旅してみたいし、監督として短編映画も撮ってみたい。日本滞在中に新曲のミュージックビデオの撮影をしようと思っているけど、実はこの後どこに行って何をするかも決めていないんだ。あらかじめ全て決めちゃうと、人生は楽しくないからね!」

普段からインターネットで日本のアニメやゲームの情報を得ているというロレンソ。取材の前日、渋谷のスクランブル交差点を歩き、リアルな東京を体感したという。

「まるで未来に来たみたい。人がたくさんいて、海みたいだった。UFOキャッチャーでお気に入りのミューツーのぬいぐるみをゲットしたんだ!」

目の前にいるロレンソ・フェロからは、妖艶さというよりむしろ無邪気さの方が際立つが、ひとたびカメラの前に立ったとき、変幻自在に眼差しや表情を操る表現者の顔が現れる。人が無意識のうちに善悪の判断を失い、ひれ伏してしまうような危険な美しさを体現する新しいスターの登場をスクリーンで確認してほしい。

取材・文・撮影=渡邊 玲子

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最終更新:8/20(火) 16:30
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