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モドキ、ダマシ、ニセ…甲虫のへんな命名のワケ|とんでもない甲虫

8/21(水) 6:05配信

幻冬舎plus

福井敬貴 / 丸山宗利 (九州大学総合研究博物館准教授)

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!

今回は本書よりコラム「モドキ、ダマシ、ニセ……変な名前の甲虫」をご紹介します。これを知ると、変な名前から、学者たちの苦労が透けてみえてきます。*   *   *

モドキ、ダマシ、ニセ……変な名前の甲虫

本書やこの連載をお読みいただいた方は、変な言葉が名前につく甲虫がたびたび出てきて、なんとなく不思議に感じたかもしれない。

そういう名前がある理由は単純だ。甲虫はとにかく種数が多くて、外見による単純な表現方法には限界がある。

だから学者たちは、似ている虫を思い出して、それにモドキやダマシやニセをつけて命名せざるを得ないのである。

「虫に対して失礼だ」などという感傷的な意見もたまに聞くが、名前とはあくまでその虫を認識するための記号であって、虫たちが抗議してこないかぎり、あまり特徴のない虫に対しては仕方のない命名法といえる。

たとえばここに図示したミナミニセマグソコガネダマシには、どんな意味が込められているのだろうか。初めて聞いた人には、どんな虫なのかまったくわからず、ただ呪文のように思えるだろう。

まず、「ニセマグソコガネ亜科」というコガネムシ科の一群があり、なんとなくそれに似ているので、「ダマシ」をつけた。さらに、この種は南西諸島にいるので「ミナミ」をつけたという次第である。

しかしじつはゴミムシダマシ科に属していて、それを知るとちょっとややこしい。

そのほか、変な名前といえば、本書にも登場するメクラチビゴミムシのなかまがあげられる。

近年、動物の分類群によっては、差別的な意味をふくむ名前を変えようという動きもあるが、あくまで目のない虫に対してつけられた名前である。

そもそも、差別や悪意は言葉に宿るものではなく、人の心に宿るものである。この虫の名前を「めなし」やその類語に変えたところで、何の意味もないように感じる。

いずれにしても変な名前や複雑な名前は、学者の苦慮(くりょ)のたまものなのだ。

本書『とんでもない甲虫』ではそういう名前の面白さも味わっていただきたい。


■福井敬貴
1994年福島県出身。2016年、多摩美術大学彫刻学科卒業。2019年、同大学院彫刻専攻卒業。学生時代はおもに甲虫をモチーフとした鋳金作品を制作。幼少期より虫をはじめとする生き物全般に強い興味をもって育ち、採集や標本の蒐集活動をおこなう。昆虫標本の展足技術が高く評価され、コレクターや研究者からの依頼が殺到。今では年間数千頭の標本を展足している。好きな甲虫はオトシブミ。

■丸山宗利(九州大学総合研究博物館准教授)
丸山宗利(まるやま・むねとし) 1974年東京都出身。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、17年より准教授。アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。国内外での昆虫調査で数々の新種を発見している。研究のかたわら、さまざまな昆虫の撮影もおこなう。最新刊『とんでもない甲虫』のほか、『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『カラー版 昆虫こわい』『昆虫はすごい』など著書多数。

最終更新:8/21(水) 6:05
幻冬舎plus

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