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全力投球“しない”奥川恭伸の技術。彼の1球は他の投手の1球とは違う。

8/22(木) 7:01配信

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 この夏の甲子園、大会を代表する投手として1人挙げるとすれば、星稜高・奥川恭伸投手で決まりであろう。

【秘蔵写真】炎天下でも凄い投球と笑顔の星稜・奥川、履正社・山田哲人の“てへぺろ顔”、ヤンチャそうな中田翔&森友哉にゴツい平田や細い浅村、根尾、藤浪らの大阪桐蔭時代。

 150キロを、試合終盤でも捕手が構えたミットにきめられるパワーと技術。そしてスライダー、フォーク、カーブを自在に操る指先感覚の優秀さ……。それらの高い能力が、「総合力」という表現でプロ野球スカウトたちから賞賛されている。

 それも確かにその通りだが、私はそれとは別に、こんな表現で投手・奥川恭伸に敬意を表したい。

 球数制限を必要としない投手。

粒揃いの旭川大高を相手に94球完封。

 この大会、最初の試合。旭川大高との一戦を見ていて、こんな投手なら「球数制限」の必要はほとんどないんだなと思った。

 先発して9イニングを、シングルヒット3本、四球1つ、三振9つを奪って、投球数94球の1時間34分で完封してしまった。

 北海道のチームだから……と安く見ちゃいけない。今年の旭川大高は粒選りの選手が揃っていた。

 昨年夏の甲子園から2年連続の出場。春の北海道大会の時に練習を見に行ったら、選手のレベルが高くて驚いた。

 「こりゃあ、今年の夏も旭大ですね」

 そう振ったら、いつもならば「いやー」と謙遜する端場雅治監督が照れもせずに言い切ったものだ。

 「私も手応えを感じてます!」

 プロはともかく、大学ならレギュラーやローテーション入りできそうな選手が4人も5人もいる。それが証拠に星稜との試合、優勝候補を相手に一歩も引かない試合内容で、完封はされたが許した得点もわずか1点だった。

 その旭川大高との試合、奥川恭伸の真骨頂は「打者の技量を計りながらのピッチング」だった。

全ての球が全力なわけではない。

 この打者なら7割の力加減でだいじょうぶ。そう判断したら、7割のボールで打ち取る。

 この打者はスライダーが弱いと見ると、まずそのスライダーで厳しいコースを突いて打者にプレッシャーをかけておき、あとはボールゾーンに誘い球を配して、焦る打者に手を出させる。

 いつも全力投球じゃない。無駄球を投げない。だから、エネルギーロスが最小限に抑えられ、終始スイスイと投げているように見えた。

 「全力」じゃない、という見立てにもし本人が不満なら、「力を入れすぎない全力投球」と言い直してもよいだろう。

 力いっぱい投げない代わりに、打者を観察し推理し、用心深く投げる。パワーだけじゃない、頭脳と感性も総動員させて、全部合わせて「全力投球」。

 だから94球で済んで、肩、ヒジ、腰にもそんなに負担を残さず、9イニング投げきれたのではないか。

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最終更新:8/22(木) 7:01
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