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「きのう何食べた?」安達奈緒子が脚本賞 『二人の世界を突きつめて描けるのは奇跡のような感じがしました』

8/24(土) 17:00配信

ザテレビジョン

2019年春クールのドラマが対象の「第101回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」で、ドラマ24「きのう何食べた?」(テレビ東京系)を手掛けた安達奈緒子氏が脚本賞を受賞した。よしながふみの同名漫画の実写化で、シロさん(西島秀俊)、ケンジ(内野聖陽)という男性カップルの日常を描いた同作。連載中の原作にちりばめられたエピソードを12話の連続ドラマに落とし込んだ手腕や、心温まるセリフの数々に多くの票が集まった。

【写真を見る】シロさんとケンジの心温まるやりとりが好評だった

そんな安達氏に作品に込めた思いや、原作の魅力などをたっぷり語ってもらった。

■ 原作の魅力は「何気ない日常を切り取る、鋭い目線」

――TV記者、審査員から多くの投票があり、脚本賞に選出されました。受賞のお気持ちをお聞かせください。

大変光栄な賞に選んでいただきまして、とても嬉しく思います。ありがとうございます。

――原作コミックも人気の高い作品ですが、安達様はどんなところに魅力を感じましたか? ドラマ化するにあたって、特に意識して生かしたのはどういった部分でしょうか?

第1巻冒頭の数ページ目にあるシロさんの、「何が激安だよ、ごんべんのつゆの素の底値は299円じゃねーか、騙されねーぞオレは」。このセリフとシロさんの表情で、この人はわたしと同じ日常を生きてる、と心をわし掴みにされました。わたしもごんべんの(本当は違う名前ですが)つゆの素は美味しいけれど高いから、つい他のメーカーのものを買ってしまったり安くなるのを待ったりしていたので、自分の生活を覗かれているような感覚を覚えました。

こうした何気ない日常を切り取る、よしながふみさんの繊細かつ鋭い『目線』がこの作品の魅力であり、読者の皆さまの心を掴んでいる一因だと思います。些細なことかもしれないけれど同じように感じている人はいて、同じように一喜一憂しているのだと思わせてくれる、「わたしたちは交わることはないけど、わりと一緒だよ」と励まされているような、サバサバしているけれど優しい、そんな空気感がとても好きです。

作品の形態としては、全体的には言葉数が多いのに、ここぞというときには、絵の線も言葉もグッと少なくなる、その『叙情的な空白』みたいなものを大切に表現できればと思っていました。

――中年の男性カップルの日常を描く作品ということで、その描き方には気を遣うこともあったかと想像しますが、悩んだ部分、苦しんだ部分などはありましたか?

悩む、苦しむ、というよりは、原作が内包する本質に驚くことのほうが多かったように思います。

お互いを思い合う二人の人間を描く、という表現において、大人の同性同士だとこんなにもフラットに描けるものなのかと何度も驚かされました。男女の恋愛、結婚、同居は、どう対等に描こうとしても性差は拭いきれず、本人たちではどうすることもできない不平等感が雑味として残ってしまいます。けれどシロさんとケンジさんは経済的にも年齢的にも精神的にも基本は対等、関係性のバランスはあくまでも本人の問題とそのときの彼らのムードによってのみ変わる、とにかく純度が高いので、ひたすら二人の世界を突きつめて描けるのは何か奇跡のような感じがしました。

■ 愛し合う二人に「詰め寄られているような凄みさえ感じました」

――主人公を演じた西島秀俊様、内野聖陽様についてもお伺いします。お二人が演じることが決まってから、お二人を意識して書かれた場面などはありますか?

西島秀俊さんと内野聖陽さんという名優のお二人が演じられるのですから、ご本人に寄せて書く必要など全くない、わたしはひたすら物語の『シロさんとケンジ』と向き合っていさえすればよい、あとはお二人に委ねればよい、と安心して書いておりました。ただ声だけは少し意識していたように思います。

――実際のお二人のビジュアルや演技をご覧になってのご感想を教えてください。

この作品において、何よりも大事にしたかったのは『二人の距離感』です。原作もそうであるように、この作品は直接表現で愛を伝え合うことはしません。『食』や『生活』を描くことで、人にとって何が大切かという主題を伝えているので、そこは譲れません。

ですので、とにかく最後の最後まで身体的接触は避ける、指一本、触れさせませんよ、というこちらの意図を行間に詰め込んでおいたつもりです。そうしたら、見事にしてやられてしまった、と言いますか、愛情表現として触れ合うことはほぼないのに、画面の中には、お互いを思い合い求め合っている恋人たちが確かにそこにいて、俺たちは愛し合ってる、だからなんだ、とこっちに詰め寄られているような凄みさえ感じました。

指先、足のつま先に至るまでシロさんへの思いやりと優しさに溢れたケンジさんと、言葉も態度もそっけないけれど、どう考えてもあなたのほうが好きでしょう、と分かってしまうシロさんが、ここまで肉体を持って迫ってこられると、もう圧倒されるといいますか、最終話ラストのケンジさんがシロさんを抱きしめるシーンは二人の思いが溢れ過ぎていて、最終話まで絶対に触れるな、とか言ってすみませんでした、どうぞいつまでもお二人で仲良くお過ごしください、ですが今はせめて見守らせてください、とひれ伏す気持ちでした。お二人に演じて頂けて本当に幸せでした。

■ 作品を通して感じたことは「相手を思い、手をかけて作ったものはきっと伝わる」

――第1話のケンジの涙から視聴者の心をつかんでいたと思いますが、反響を感じる瞬間などはありましたか?

他の仕事場や私的な場で「楽しみに見てます、良い作品ですね」と言っていただくことが多く、とても嬉しかったです。ネットなどでの視聴者の方々からの好意的な声は、とにかくありがたく救われました。

――放送終了後から続編を待ち望む声も多く挙がっていますが、仮に続編があるとすれば、こういった展開・場面を書いてみたい、というような希望はありますでしょうか?

続編をとのお声をいただけることは心から嬉しいです。けれど作品は12話で最良の形になるよう力を尽くしたつもりです。西島さんのシロさんと内野さんのケンジさんの、見てみたい顔や聞いてみたい言葉はたくさんありますが、だいぶ個人的な願望なので胸の内に留め置きます。

――あらためて、これまで多くの作品に携わられている安達様にとって、「きのう何食べた?」はどのような作品となりましたでしょうか?

細部にいたるまでこだわり抜いて作ってくださった監督、制作、俳優、音楽やフードコーディネートも含めた現場のスタッフの皆さま、そして熱心に見てくださった視聴者の方々、何よりも、よしながふみさんの原作から、「相手を思い、手をかけて作ったものはきっと伝わる」ということをあらためて教えていただきました。この貴重な体験と大事な指針を胸に今後も書いてゆけたらと思います。(ザテレビジョン)

最終更新:8/24(土) 17:00
ザテレビジョン

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