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1200年前から働く女子は妄想で疲れを癒していた!?「仕事はつらいよ」特集|ラブコメ!萬葉集

8/26(月) 6:05配信

幻冬舎plus

三宅香帆

「か、帰りたい……」

そう嘆く時もあるのが人生、いや、労働ですけれど。

ブラック企業、パワハラ上司、望まぬ転勤!

と、嘆いてるのは、まさかの現代日本だけではなくて、萬葉集の時代も同じだったのです……!

「最近の若い人はあまり働きたがらない、すぐ帰りたがる」って言う人いますが、それ1200年前の人も同じですから!!!

というわけでラブコメ萬葉集、今回のテーマは「働きたくない! 家に帰りたい!」。もはやラブコメの域を超えているのではというツッコミを受けそうですが、ちゃんとラブでコメディな話も出てくるので安心してください。 

さて、今回まずはこちらの歌。

 

夫君に恋ふる歌一首

飯食めどうまくもあらず 行き行けど安くもあらず あかねさす君が心し忘れかねつも(巻16・3857)

(現代語訳)ごはんを食べてもおいしくない。そのあたりを散歩しても心が安らがない。あの人の心を忘れられないんだもの!

 

……これだけ読んだら、ただの恋の歌、それこそ「ラブコメ」の歌のように思えますよね。

だけどこの歌には、左注、つまりは注釈がついている。どんな経緯でこの歌が詠まれたのか。それはこちら。

 

右の歌一首は、傳へて云はく「佐為王に近習の婢ありき。時に、宿直遑(いとま)あらずして、夫君に遇ひ難し。感情馳せ結ばれ、係恋実に深し。ここに當宿の夜、夢の裏に相見、寝を覺めて探り抱くに、曽て手に触るるものなし。乃ち哽咽び歔欷きて、高聲に此の歌を吟詠しき。因りて王これを聞きて哀慟し、永く侍宿を免かれしめき」といふ。

あるところに、佐為王の邸で働くOLさんがいました。彼女の出勤は昼も夜もずうっと続いていたので、夫に会えない日々が続いてしまった。すると彼女の気はふさぐし夫に会いたいしで悲しくなってしまった……と。

 

夫にも会えないブラック企業だったんかい! と読者は彼女を心配してしまいますが、まあ続きを読みましょう。

ある日、夜に泊まりで仕事だった時、彼女は夢の中で夫の姿を見ることになります。

そのとき手探りで夫に抱きつこうとしたけれど……触れられる相手はそこにいない。手は空をつかむようにして、彼女は目を覚まします。

たまらなくなって彼女は泣きじゃくります。そして声をあげてこの歌を詠んだわけです。

 

「飯食めどうまくもあらず 行き行けど安くもあらず あかねさす君が心し忘れかねつも

(ごはんを食べてもおいしくない。そのあたりを散歩しても心が安らがない。あの人の心を忘れられないんだもの!)」

 

主人である佐為王はこれを耳にして、彼女をかわいそうに思いました。そしてそれ以来、彼女はなんと、ずっと夜に泊まりの仕事を免除されたとのことです……!

おおっハッピーエンドじゃないか! ブラック企業社員を、歌が、すくう!

昼も夜も仕事で、ああ帰って旦那さんに会いたい~旦那さん夢で見ちゃったんですけど~、っていうかもう働きすぎてご飯を食べても散歩しても楽しくないんですよう~! と嘆くOLさんを、上司がかわいそうに思って夜の仕事免除……ってあまりにも感動のストーリー。やばすぎ。歌、つよい。

まあ、こんな話が日本最古の歌集である萬葉集に収録されているのはどうなんだ日本、と言いたくなりますが。我々のずっと前に生きてた彼女も、ブラック労働環境には苦労してたわけですね。
 

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最終更新:8/26(月) 12:05
幻冬舎plus

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