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文芸評論家が選ぶ、歴史小説の上半期ベスト級作品『傾城 徳川家康』ほか9作品

8/28(水) 7:00配信

Book Bang

今年も半分が終わり、時の早さを感じるこの頃です。上半期のお気に入り作品は見つかりましたか? 末國さんが選ぶ、歴史小説の上半期ベスト級作品も登場します! ぜひお楽しみください。

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 新天皇の即位で元号が「平成」から「令和」に変わったが、その騒動も落ち着いてきた。改元を踏まえ「平成」を回顧、総括する本が相次いで出版されたが、ミステリのアンソロジー『平成ストライク』(南雲堂)もその一冊といえる。

 シングルマザーに育てられ二分の一成人式に批判的な小学生を語り手にした千澤のり子「半分オトナ」は、残酷で意外な結末に驚かされるだろう。新興宗教の教祖が殺され陰茎を切り取られた事件に、陰茎切断事件専門の探偵が挑む白井智之「ラビットボールの切断」は、アンソロジーのためかエログロ色は抑えぎみだが、ロジックの切れ味はいつも通り。消費税導入と税率アップにともなう騒動が事件解決の鍵になる乾くるみ「消費税狂騒曲」は、平成のミステリ史が概観できるのも面白い。井上夢人「炎上屋尊徳」と貫井徳郎「他人の不幸は蜜の味」はネット社会の闇を活写しているなど、「平成」デビューの九人の作家が、謎解きと社会的なテーマを融合させながら、それぞれの視点で「平成」を切り取っていた。

 関東大震災後に住宅供給を行った同潤会が、代官山に最新設備のアパートメントを建設した。ここを舞台にした三上延『同潤会代官山アパートメント』(新潮社)は、震災で妹を亡くし、妹の婚約者だった竹井光生と結婚した八重が代官山アパートメントで暮らし始めた一九二七年から、阪神淡路大震災後の一九九七年まで、四代にわたる歴史を連作形式で描いている。

 戦場で心に傷を負った杉岡俊平と八重の娘・恵子の恋、ビートルズに魅了された恵子の息子・進が経験したささやかな冒険、恵子のもう一人の息子・浩太の娘・千夏が巻き込まれたトラブルと勇気ある決断など、東京の街並みの変化と当時の世相を活写しながら物語が進むだけに、どれほど時代が移ろっても変わらない家族愛が際立って感じられる。

『ビブリア古書堂の事件手帖』の読者はミステリタッチの作品を期待するかもしれないが、本書は人情に重点が置かれている。ただ、子供時代の恵子に両親が贈るつもりで米びつに隠していたクリスマス・プレゼントが消える「恵みの露」に加え、前半のエピソードが後半で意味を持ってくる本書の緻密な構成そのものもミステリ好きなら満足できるはずだ。

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最終更新:8/28(水) 7:00
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