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藤原正彦が父・新田次郎に似ていると認めた小説家とは? 密かに注目を集める気鋭の作家に迫る

8/29(木) 8:30配信

Book Bang

『国家と教養』で大衆文化教養の大切さを説いた数学者と、その父の名を冠した文学賞を受賞した気鋭の作家――。二人が語り合う、理系分野の研究と文学の意外な結びつきとは。

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研究はうまくいかないもの

藤原 あらためまして、新田次郎文学賞ご受賞おめでとうございます。短篇集が受賞するのはめずらしいんです。よっぽど抜きんでていたのでしょう。

伊与原 ありがとうございます。

藤原 僕は数学者ですが、父新田次郎も母藤原ていも作家だったものですから、百姓が草を抜くようにごく自然に書き始めました。伊与原さんは、なぜ小説を書く気になったのですか。

伊与原 研究がうまくいかなかった時期がありまして……。

藤原 研究はほとんどうまくいかないものですからね。僕も九割五分はうまくいかなかった(笑)。

伊与原 その頃は研究室に長くいるのが嫌で、家に早く帰っていました。時間をもてあましているときに、たまたまトリックを思いつきミステリーを書いて江戸川乱歩賞に応募してみたところ、最終選考に残していただきました。それが始まりです。

藤原 伊与原さんは父と共通点を感じる作家です。伊与原さんは地球物理学を修められましたが、新田次郎も気象技術者でしたから、同じ理系出身です。
 全六篇が収録された『月まで三キロ』は、ご専門が見事に活きていますね。表題作は天文学。中学受験を控えた小学生の男の子が主人公の「アンモナイトの探し方」は地質学。「エイリアンの食堂」では宇宙物理学。宇宙のなかで最も小さい単位の素粒子論と最も大きい単位の宇宙論をつなぐ夢のような会話を、お母さんを亡くした小学生の鈴花ちゃんと女性研究者プレアさんが交わしますね。童話のような美しさがありながら、短い任期で区切られて研究に集中できない現代の研究者の状況に対する静かな怒りが感じられる、社会性のある作品です。

伊与原 僕自身、富山大学で任期つきの助教をしていたことがあります。

藤原 二つめの父との共通点は、恋愛を書かないことです。「エイリアンの食堂」でも、プレアさんと食堂の主人である鈴花ちゃんのお父さんとの間に恋でも生まれるのかと期待していましたのに(笑)。

伊与原 雪の結晶をめぐる「星六花」では少しは恋愛を書きました(笑)。ただ僕自身、読者として恋愛が主題の本を求めていないということもあり、それほど書きたいと思わないんです。

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最終更新:8/29(木) 8:30
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