ステロイドの問題は、長期間使用すると、塗っても効かなくなる抵抗性や、依存性が出てくることである。このために強い副作用をもたらし、アトピーを治りにくくしているといわれる。最も強いステロイドを塗ると「生体の副腎皮質ホルモンの10万倍のホルモンが皮膚に残る」(佐藤氏)といわれていて、慎重に用いられることが求められるのに、皮膚科で安直に処方されてきたのがステロイドなのである。
もっとも、ステロイドを使い続けたら全員が橋本さんのような事態になるわけではない。元国立名古屋病院の深谷元継医師によれば「1~2割」だという。これを深刻な数字としてとらえるのかどうかは別にして、避けられるものなら避けたいと思うのが人情だろう。ではステロイドを使わずにアトピーは治療できるのだろうか。
深谷氏は「古江(増隆・九州大学)教授の論文では、6カ月間ステロイドを塗り続けてアトピーが改善する率は37%ですが、玉置(昭治・元淀川キリスト教病院)先生がステロイドを使わない治療をしたら69%が改善しています」という。
また12歳以下の小児について、都内で開業する藤澤重樹医師のデータによれば、ステロイドを使用した場合の改善率が52%に対し、ステロイド不使用のほうが97%と圧倒的に成績がいいという。
いきなりステロイドをやめると、橋本さんのように急激に症状が悪化することもあり、これを抑えながら治療する方法は医師によって違う。私が興味深いと思うのは食事療法である。これは、かゆみの原因となる食べ物の摂取を抑えながらステロイドの使用を中止し、あとは人体の自然治癒力に任せるという考え方だ。
下関市立中央病院の永田良隆医師は、中等症および重症の子供(15歳以下)540人を、n-6系の植物油や牛乳、卵などを除去した食事療法で2年間追跡したところ、途中で脱落した人を除外すれば、82%が元の健康な皮膚に戻り、11%が半分以上再生したという。改善率は実に93%だ。
前出の橋本さんも、堂園氏のもとで食事療法と抗酸化ビタミンで治療を続けたが、1年後には「もう大丈夫」と確信したそうだ。
通常、ステロイドの依存症が治るまで「標準的にはステロイドを使った期間の1割、つまり20年使ったら2年かかる」と深谷氏は言う。ステロイドを使うにはそれだけのリスクを覚悟すべきなのだ。アメリカのアトピーの治療ガイドラインは09年に失効したままだが、改訂版ではステロイドの副作用などが書き加えられるといわれている。
食事療法などで一定の時間をかければアトピーは自然に治癒する。患者も医者も急いで痒みをとろうとするからステロイドを使うのである。佐藤氏は言う。
「私ならリスクを否定できないステロイドは使いません」
奥野 修司/週刊文春 2011年12月22日号
最終更新:8/31(土) 16:45
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