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人類の文化的躍進のきっかけは、7万年前に起きた「脳の突然変異」だった

9/2(月) 12:13配信

WIRED.jp

実在しない「想像の産物」をほかの誰かに伝えることができたとき、人類の文化的歴史が幕を開けた──。

人類はなぜ文化的に進化したのか。

遺伝学的および考古学的研究によると、われわれ現生人類にはネアンデルタール人と共通の祖先から分かれる約60万年前には、すでに現代のような音声器官が備わっていたと考えられている。チンパンジーの音声器官に20から100の異なる発声があることを考えると、人類の祖先が主要なコミュニケーションに使用していた“単語”の数は、現在とさほど変わらなかったと思われているのだ。

その一方で、洞窟壁画、住居の建設、副葬品を伴う埋葬、骨製の針などにみられる道具の専門化など、現生人類の想像力を彷彿とさせる「文化的創造性」は、7万年前よりも以前には発見されていない。

この“文化的空白”の50万年間──現代的音声器官の発達と現代的想像力の獲得の間に横たわる長いギャップは、何十年も科学者たちを困惑させてきた。7万年前の想像力獲得に至った要因、そしてこのプロセスで言語が果たした役割は何だったのだろうか?

ボストン大学の神経学者アンドレイ・ヴィシェドスキー博士が「Research Ideas and Outcomes」で発表した研究によると、それは脳の前頭前野の発達を遅らせる突然変異だ。

ヒトの前頭前野は霊長類のなかでも極めて発達が遅く、だいたい20代半ばから30歳くらいまで発達し続ける。ヴィシェドスキーは、前頭前野におけるさまざまな脳障害や、子どもの脳が成長するなかで直面する言語的理解の発達を挙げ、前頭前野による知覚世界と内なる思考の統合が文化形成のための想像力獲得に必須だったと議論する。それは具体的にどのようなものだったのだろうか?

外側前頭前野と言語の関係

ヴィシェドスキーは長年、「言語」と「想像力」の脳神経プロセスを研究してきた。論文によると、脳の外側前頭前野には「記憶にあるもの」と「単語」や「文法」を統合し、まったく新しいものを頭のなかで想像することを可能にする機能がある。

興味深いことに、外側前頭前野に損傷がある場合、人は物と物の関係や、相対性を表す文章が理解できなくなるという。例えば「犬は賢い」というシンプルな文章は理解できても、「犬は猫よりも賢い」となると、どちらが賢いのかわからなくなる。「円の上に三角を描く」「春は夏の前に来る」なども同様に、物事の上下関係や前後関係の理解がなくなってしまうのだ。

このように、記憶のなかの複数の単語を意味のあるメンタルイメージとして合成するプロセスは、「前頭前野統合(Prefrontal Synthesis)」または「メンタル統合(Mental Synthesis)」と呼ばれている。

「メンタル統合を理解するには、『犬がわたしの友達を噛んだ』『わたしの友達が犬を噛んだ』という2つの文を考えてください」と、ヴィシェドスキーは説明する。「使われている単語と文法がまったく同じ場合、単語か文法かのどちらかを使用して、意味の違いを区別することは不可能です」

ひとつめの文章に込められた“不運”と、ふたつめの文章の“面白さ”を理解するには、「犬」と「友達」を頭のなかでどうかかわらせるかにかかっている。つまり、“心の眼”で「犬」と「友達」の関係をイメージできたとき、これらの文章は初めて特定の意味をもつようになるのだ。「メンタル統合」とは、複数の単語とそれらの関係を脳内で統合し、想像することを可能にするプロセスなのである。

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最終更新:9/2(月) 12:13
WIRED.jp

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