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落語×演劇×幕末!ダメダメ落語家に吉田松陰が弟子入り!? 劇団ラチェットレンチ新作公演直前インタビュー(前)

9/4(水) 15:45配信

ザテレビジョン

落語から題材を取った作品を数多く送り出している劇団ラチェットレンチが、9月5日(木)~9日(月)、東京・ザムザ阿佐谷にて新作「幕末サンライズ」を公演する。

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劇団ラチェットレンチは、現在は劇団の作家に専念している大春ハルオらを中心に2010年に結成。2014年「落伍者。」で池袋演劇祭優秀賞を受賞。2018年には「ラクゴの国へ、いらっしゃ~い!」と題して落語作品3部作を一挙上演するイベント公演も開催している。

今回、劇団が挑むのは、落語×幕末の掛け合わせ。時は幕末。吉田松陰が、まだ松陰ではなく寅次郎だった時代。歴史の表舞台に出る前に、江戸で出会ったダメダメ落語家・柳亭燕枝(えんし)に弟子入りしていたという奇想天外な物語をもってきた。松陰、燕枝、高杉晋作ら特徴あるキャラクターを多数登場させて、心温まる舞台を展開する。

新作公演直前の稽古場で、前半は主演の酒井孝宏、小笠原游大、劇団主宰の井上賢吏(たかし)を中心に、ここに脚本・大春ハルオ、演出・三浦佑介、劇団員の片岡萌も加わる形で話を聞いた。

――まず井上さんから主演二人の紹介をしていただけますか。

井上:酒井さんが演じる今作での吉田松陰(寅次郎)は、真っすぐ過ぎて、周りからしたらちょっとおかしな人に見える。動乱の世の中で、その真っすぐさを見せたことによって、動乱を正そうとした若者が付き従い、彼らに多大な影響を与える。命をもって自分の思いを伝えていった人ですね。

小笠原さんは燕枝役。いわばフーテンの寅さんのようなキャラクターで、ふらふらしてる。松陰に出会って自分の落語観を変えられ、動乱の中に踏み込み、維新の心を持つんですけど。この人なりの戦い方、生き方に気付いていく。松陰の影響を自分なりに消化して、また新しい時代に向かうという人物です。

――酒井さんもご自身の役柄を語っていただけますか。

酒井:吉田寅次郎は、熱い塊がそのまま胸の中にドーンとある男。激動の時代に生きる焦りがあって、そんな中で落語に出会う。そのことが物語の核になっているんですけど、落語の何かに可能性を見いだし、もしかしたらこの先の日本の突破口になるかもしれないと勝手に思う。その焦りと情熱みたいなものが素直に出せたらいいなと思います。

人間としては、人が好きで、あまり垣根をつくらない。燕枝の周辺に人が集うところは、「男はつらいよ」の「とらや」みたいな雰囲気があるんですよ。その場所に武士階級の松陰が入った時の化学変化のようなものをうまく出せるといいなと思います。

――小笠原さん、燕枝はどんな人物ですか?

小笠原:実際にいた噺家ですけど、それは意識せずにやってます。滑稽話ばっかりやる噺家。ある程度のプライドも持っているんだけど、全然売れないし、人気もない、周りからの評価も低い。だからふらっふら生きている。

人からの影響をとても受けやすくて、ある人がもっともらしいことを言ったら、そうかもしれないって、すぐ思ってしまう。だから寅次郎に「日本は大変なことになってるんだよ」と言われて、「そうなのか」ってすぐ傾倒しちゃう。

燕枝も人が好きで、彼の元には燕枝を好きな人が集まっている。そういうつながりをすごく大事にしている人物だと思いますね。

――井上さんは久坂玄瑞役。

井上:史実だと、松陰の過激さを少し落とした上で、なんとか横のつながりを作って国を変えていこうとした人ですよね。身長180cm、イケメン、声もいい。詩を読んでいると美女が集まってきたっていう逸話がある。僕とは真逆な感じ(笑)。

――実在した人物を演じることで、研究はされましたか?

小笠原:燕枝に関しては、調べてもほとんど出てこない。資料があったら、ちょっと読みたいなって思ったかもしれないけど、台本も全然関係なく書いたっていうから。

――台本の人物造形のままに演じたと?

小笠原:そうですね。本当にダメなやつで、ダメなやつが人に影響を与えるって何だろう、そんな男が人から影響を受けて成長するというのはどういうことだろうとすごく考えました。あと、落語はたくさん聞きましたよ。

――落語家を演じることは、他の役とは異なる部分はありますか?

小笠原:それはないかな。しゃべることも好きなんで。落語を覚えて噺家の人と二人で落語会をやったこともあるんです。その噺家さんは、演劇の人は演劇の人の話し方でやればいい、演劇の落語を君はやったらいいと思うよ、と言ってくれて。今回も、僕のしゃべり方で、演劇として落語をやっています。

――余談になりますが落語をやった時の高座名は?

小笠原:高座名は・・(笑)。ずっと世話になってるバーの名前が「にゃらんご」っていうんですが、「にゃらんご亭大大」という高座名でした(笑)。

――酒井さんは松陰の逸話を意識されましたか?

酒井:私は実在の松陰をめちゃめちゃ意識しましたよ。「竜馬がゆく」とか、司馬遼太郎を読んでる時期があって。でも吉田松陰は避けていたところがあったんです。今回、ちょうどいいやと思って、いろいろと調べました。

ドラマ「花燃ゆ」を見て、大春さんに関連の本を借りて、漫画の「お~い!竜馬」を読み、山岡荘八を読み、司馬遼太郎の「世に棲む日日」も読んで、調べられるだけ調べた。松陰の遺書とされる「留魂録」も全部読みました。

「留魂録」は壮大なことから細かいことまで書かれていて、筆まめな人だなと思いました。演出からも言われてるんですけど、言葉の人、言葉の秀才。言葉を使って自分の思いを伝える術を持っていた。

――井上さんはいかがですか。

井上:僕の場合はすぐキャラクターをまねちゃったりする癖もあるんですが、資料的な部分に関しては、今に伝わる記録の奥にどういう物語があって、結果こうなったのかっていうところが知りたいんですね。

今回描かれていないところも、彼がどうして横のつながりを持とうとしたか、どういう生き方をしようとしたか、どういう風に世の中を変えていこうとしたのか、どういう過程で自殺したのかなど、大きな事件をある程度調べて、その情報から徐々に落としていく作業はしました。思っていたより過激な人だったなという印象です。

――「ラチェットレンチ」は劇団の特徴として、落語に題材をとっている作品が多いですが、酒井さん、小笠原さんはその面白さをどう考えていますか?

酒井:松尾芭蕉で言うところの「軽み」みたいなもの、落語にはそういう要素があると思ってて。ものすごい熱量をもってやっても伝わらないものを、ある形を通して伝えることができる、一個のアートフォームだと思う。

ラチェットレンチは、その使い方がうまいと、去年出た時に思ったし、それでお客さんの懐に入るところがある。落語を知らない人も楽しめるけど、知ってる人が見るとものすごい楽しめちゃう。お客さんと共有できるもの、綱がしっかりあるんだなあという印象ですね。

小笠原:落語には独特のリズムがあって、演劇の言葉で書かれていても、落語のリズムで運んでいるような気がするんです。例えば、暗いことをやったとしても、暗い人物を描かれていても、お客さんに入っていく時は沈まないというか。

落語の世界というのは、バカばっかりが出てくる。この劇団の登場人物は、落語の中の登場人物みたいに、人懐っこい人として描かれる。いい意味でポップ、波間に漂って、プカプカ浮いてる感じ。それがお客さんとの関係を良くする。キャラクターを伝えやすいし、「あ、この人実在してたかも」って思っちゃう。

ラチェットレンチの芝居は、どのキャラクターも落語のそれのように嫌われない人物っていう印象。観客に愛されるような人として書かれているのがいいなと思いますね。

――第1作から落語がテーマだったわけではないんですよね?

大春:6作目「梅咲く、時雨」(2013年)で初めて、僕が落語をやりたいと言って始めて、そこから飛び飛びで、前回の3本立てを入れると全部で9公演。

1作目はコミカルなオカルトものだったんですけど、以降は基本的にサスペンス。というのは、劇団員は、井上もそうなんですけど、サスペンスが好きで入ってきたんです。

井上:そうなんです。そもそも落語をやると思って劇団に入っていない。大春が落語をやりたいと言い出した時に、猛反対した一人です(笑)。

大春:落語ものをやりたいと言った時に、何を考えているんだって大反対された。でも僕はやりたいって言って、そこで折衷案を取って、落語なんだけどサスペンスタッチで、オカルト色も含んだ作品にした。

誰が落語をやるんだって言うから、じゃあ僕が習いに行くって言って、それで、書いて、演出して、主演もやるっていうのを初めてやったんですよ。そこで味を占めたというのはあります。

井上:そこからサスペンスをやって、次はコンクールに出ます、ということになった。その作品に、1度目の落語ものに出た方が出ていただけるということになり、だったら落語を書け、稽古前に台本が上がらなくてどうするんだって言われて、その時だけちゃんと稽古前に台本が上がった。

それが「落伍者。(らくごもん)」(2014年)なんですけど、僕らからすると全部が落語の話というのはやったことがない。それまでサスペンス劇団という感じでやってきたから、大丈夫かな?って思って。

大春:一応、人は殺しましたけど(笑)。

井上:「落伍者。(らくごもん)」は、コンクールでは評判が良くて、でもそこからまたサスペンスに戻った。劇団員自体はサスペンスがやりたくて入ってるから。最近入ったメンバーは、落語ものをやりたくて入っていますが。

片岡:私は落語作品に惹かれて。

井上:ね。彼女は前回からの出演者。でも、落語ものをやってみて、小笠原さんも言ったけど、嫌われるキャラクターがいないというのはとてもいいことなのかなと思います。演出してもらっているおかげもあるけど、落語の作品になってから華やかなイメージがついたとは思いますね。

基本的に大春が書くのは、人と人のつながり。誰かと誰かの思いがつながって、昔の遺恨がクリアされて、この人たちこういう関係だったんだ、よかったねっていうラストが多いんです。サスペンスから落語にベースが変わっても、そこだけはぶれていない。

――ハートフルという部分は劇団の核ですよね。

井上:そこを見せたいと僕はずっと思ってます。何を書いてもきっとその要素が入ってくる。落語が売りっていうよりも、人と人との関わり、そこに伴う思いというものを描いていきたい。

小笠原:ハートフルで、人と人とのつながりというと、重い恋愛ドラマとかになりそうだけど、とてもエンターテインメントだなと思うんです。ハートフルなエンターテインメント。とても演劇的で人の心を明るくする、見る人を気持ちよくする。そういうものが落語作品でもサスペンスでも共通するところなんだろうと思います。

今回も、もちろん暗いドラマはあるけれど、やっぱりエンターテインメントになっている。

――では、主演お二人のことを中心に作品の見どころを井上さんにまとめていただけますか。

井上:必死におじさんたちが汗かいて、血を吐きそうな思いをして作ったキャラクターと、その物語の中の思いっていうものを見に来ていただけたら。何かしら持ち帰っていただけるようなエネルギーを放出してると思う。生で見るおじさんたちのエネルギーを感じていただけたらと思います。

小笠原:もうちょっと何かないのか。

三浦:もう少し頑張って。

井上:(しばらく考えた末)そう言われると出てこないんだよなあ…。

小笠原:ハイ! 作品の見どころは!?

井上:なんか稽古みたい。追い詰められると出てこない。あとは演出と脚本に聞いてください。僕を待ってても出てこないから(笑)。

片岡:(井上代表は)本番で力を発揮するタイプですので。本番をご期待ください。

小笠原:彼(井上)について言うと、演じているのはもしかしたら久坂玄瑞そのものじゃないのかもしれないけど、見ている人は久坂玄瑞としてとらえるわけですよね。こういう人がいたんだと、たぶん彼もそういう役作りをしていると思うんです。そこで彼にしかできないことをやっている。

自分では言わないけど、俺は周りとは違うぜ、俺を見てくれって強く思いながらやってるんですよ。

三浦:しゃべると引っ込み思案みたいになりますけどね。誰よりも俺を、このスターを観ろ!というタイプ。

大春:集合写真を撮るときは絶対センターに入ろうとするからね。

井上:そうなんです。真ん中でしか写らない。

酒井:今回彼は稽古に入るのが遅かったんですけど、彼が入ると稽古場の空気は変わりましたからね。さすが座長、と思いました。

(ザテレビジョン)

最終更新:9/4(水) 15:45
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