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落語×演劇×幕末!ラチェットレンチ新作公演直前インタビュー(後) 大春ハルオ&三浦佑介

9/4(水) 15:46配信

ザテレビジョン

9月5日(木)~9日(月)、東京・ザムザ阿佐谷にて新作「幕末サンライズ」を公演する劇団ラチェットレンチ。

【写真を見る】劇団ラチェットレンチで落語もの芝居の脚本を多数手掛ける大春ハルオ

新作公演直前の稽古場で行ったインタビュー。前半の役者陣へのインタビューは、井上賢吏(たかし)代表のいいところを主演の二人が盛り上げて終わるという奇妙な形になったが、ここからは、脚本・大春ハルオ、演出・三浦佑介に作品内容を深く聞いた。

――三浦さんが関わるようになったきっかけを聞かせてください。

三浦:大春さんと出会ったのは僕が役者をやってる時で、大春さんも役者で、ある時、アマチュア落語をやってると聞いて。劇団で落語の芝居をやろうって言うと劇団員が反対するんだよって嘆いていたんです。僕は「絶対面白いじゃないですか」と大賛成。落語と演劇の組み合わせって、当時あまりなかった。エンタメと落語を融合させてる芝居は少なかった。それから何年か後に演出することになりまして。

――どの作品から?

三浦:「落伍者、改」(2015年)です。「改」で初めてやらせていただいて。それまでラチェットレンチはずっと大春さんが作・演出で、他の演出家を入れることはなかった。

――参加を決めた理由は何ですか?

三浦:それは大春さんです。大春さんのことを面白いなって思っていた。僕は演出が生業で、いろんなところで仕事していますが、基本的には人で選ぶ。この人とやると面白いなと思えばやるし、どんなに条件が良くても、人が嫌だなと思ったらやらないと決めてる。モチベーションが上がらないので。どんなに環境が悪くても、この人と一緒にやれるのだったら面白いと思っていれば、その人がいなくならない限りは楽しい。

大春さんからお話をいただき、台本を読ませてもらったら「面白い!」とすぐ思った。落語はもともと好きだったんですよ。僕は下町の出身ですし。

大春:「落伍者、改」も終わって、サスペンスを挟んで、その次に何かやろうってなった時に、劇団内はサスペンスに行かざるを得ない空気だったんですよ。でも僕の中では、昨今の現実の事件のほうが面白いじゃないかという思いがあり、それで佑介くんと話したら、「落語で良くないですか?」と言ってくれて。

その日のうちに劇団員に「ごめん、やっぱり落語にする」と伝えたら、劇団員は「ふざけんな!」って。「サスペンスをやります」とすでにオファーを出している役者の人もいたけど、その人たちにも「すみません! やっぱり落語をやります」と断りを入れて、それで出来上がったのが「ラクゴ萌エ」(2017年)です。

三浦:焚き付けた責任もあるから、ちゃんと全員が満足できるくらいの稽古付けるぞって思いながら挑みましたよ。

大春:僕自身、一度「落語のラチェットレンチ」っていう風に世間を思わせたい気持ちがあったので、もうやっちゃおうって「ラクゴ萌エ」をやって、落語作品3本立てのアンコール(2018年「らくごもん。」「ラクゴ萌エ」「与太郎、打ち上げ花火」)をやって、今に続いてる。劇団の中には「落語もうやめようぜ空気」ももちろんあります。

三浦:ラチェットレンチは、サスペンス劇団と言いつつも揺れがあって、大春さんの中でも劇団員の中でも揺れている。僕は一貫して、落語を押しております。

大春さんはアマチュア落語家だから下地もしっかりある。落語とキャッチ―なものとを掛け合わせてエンタメに仕立てられるのは強いなと思います。

「ラクゴ萌エ」の話を聞いた時は、女性の落語家をどうやるか、それは難しいよ、という話にもなったんだけど、女性落語家に注目させるという取り組みも少なかったし、落語とかけ離れている漫画との組み合わせとか、下手をすると怒られそうなところは逆に狙い目かもしれないとも思いました。

――「幕末サンライズ」に登場する柳亭燕枝という落語家をどのように見つけたのですか?

大春:幕末をテーマに設定しましたが、幕末の落語家というと、圓朝(三遊亭圓朝)になっちゃうと思うんです。知っている劇団が落語がテーマの芝居をやった時にも圓朝を主役にしましたし。そのまねをしたくない気持ちもありましたが、みんなが知っている人物は書いていて面白くないんですよ。いじりづらいですし。

三浦:誰もが知っているキャラクターをめちゃめちゃいじってますけどね(笑)。

大春:幕末テーマで、とにかく坂本龍馬と新選組は出したくないというのはあった。動乱の切った張ったの時代で、叫んで斬り合うようなアクションエンタメの作品は多いんですよ。その種の作品はアクション好きの方には認められると思うんですけど、僕はちょっと好きじゃない。できるだけ殺陣もやらない方向でしたけど、まあ、物語上やらざるを得ない。華やかさもあるし。

三浦:殺陣はほんの少しですよ。

大春:こだわりとして、落語の要素は入れなきゃいけない。僕はもともと長州藩が大好きで、一番好きなのは高杉晋作なんですけど、そうなると松陰先生を描かざるを得ない。

それで圓朝と松陰となると、有名人同士になっちゃうから、初めはオリジナルキャラを作って、オリジナルキャラと松陰に仕立てようと思ったんです。

オリジナルだと、今度は逆に圓朝を出さないと幕末感が出ないという気持ちになり、そこはリアルな人がいた方がいいと思って、調べていったら、柳亭燕枝が見つかった。

でもどんな人なのか、あんまりよく分からない。よく分からないならいじれるなと。圓朝のライバルだった、という一言があればいける。それで名前だけを借りる形で、実在の人物とは、全く関係のないキャラクターに仕上げました。

三浦:企画した時は、「幕末と落語を絡めたら楽しいじゃないですか」くらいでぶん投げてしまって、ホントすみません(笑)。無責任にキャッチ―なものと落語を掛けるというアイデアをポーンと出しただけですけど、それを井上さんも面白がってくれて。

大春:幕末やるんだったら高杉晋作の時代劇しかやりたくなくて、時代劇はお金がかかるんで絶対やらないって言ってたんですけど、劇団員が幕末やるならどうにか刀はそろえる!と言い始め、そこを信じて「分かりました。幕末やりましょう」となりました。

三浦:今回、いつもと大きく異なるのは、落語の中の話ではないところ。いつもは落語の話の中の芝居だから、扇子と手ぬぐいで演出する方法で今回もやってたんですけど、どうしても座りが悪い。

高杉晋作が絡む話だから、本物を使わなきゃダメだって思って、刀を用意してくださいとお願いし、コロスも欲しいですとお願いして追加してもらい、兼ね役ではやれない芝居だと気が付き、参加者も増え・・・大変なことになりました。

大春:小劇場では、武士が帯刀するのは刀一本というのが主流ですが、今回は二本差しですから。

三浦:僕のわがままで。武士は二本でしょ。どうしても、刀一本でやっているのが許せない。二本差しにするとアクションしづらいから、アクション芝居には一本が多いですけど、そこは嘘をつきたくないなと思って。

「幕末サンライズ」は、武士階級と落語家の友情物語なんですよ。ダメダメ落語家の弟子に松陰が入るというお話なんです。階級の差が逆転しているところに面白さがある。武士階級が武士らしく見えなかったらおしまい。だから刀は二本差しでないと、この話の面白さは半減しちゃう。

三浦:今更ですが、ストーリーもちゃんと説明しないとですね。お話はこうです。

柳亭燕枝というダメダメ落語家がいる。圓朝に対抗心だけ燃やしているが、変な落語をする。とにかく滑稽話しかやらない。そんな落語家のところに吉田松陰がやってきて、あなたの弟子になりたいと言う。

圓朝じゃなくて燕枝? となるけれど、ペリーがやって来て、松陰がいろいろと悩んでいる時に、燕枝の落語を見てすごく心が癒された。それで、今の時代に必要なのはこれだ、と思って弟子に入る。

高杉晋作の描き方はこれまでとかなりと違っていて、「おもしろきこともなき世をおもしろく」という考え方に至ったのは、その落語家の影響だというのが今作の斬新なところですね。

高杉はおカタイ、すごいまじめ。燕枝の弟子に入った松陰が、落語っていうのはそういうものじゃないんですよと高杉を諭す。その松陰が捕まる中で、燕枝と高杉が共闘関係を結ぶ。その影響で高杉も変わっていく。その高杉の描き方が実に面白い。

松陰の「諸君、狂いたまえ」につながる、その源泉に燕枝というダメダメ落語家がいたんじゃないかというのが、面白い「嘘」だと言えるのでは。

――燕枝周辺の人物もたくさん描かれますよね。

三浦:基本的には、燕枝の周辺の人物が主役。そこと長州の人々のかかわり。松陰は奥さんをとらないで終わるんですけど、松陰のひそかな恋物語も今回は盛り込んでます。松陰の友情と恋物語と、晋作との師弟関係がまざってきます。

幕末の動乱の中に巻き込まれると、刀をもって戦う方向に行くところを、役に立たないと思われてる落語家がそこに巻き込まれないバランス感覚でいるということが、松陰にとってはインパクトがあった。

この出会いはすごい想像力だなと、読み合わせの段階で震えて、読みながら泣いてましたからね。テンション上がってLINEで大春さんに「最高です!」って送っても、大春さんは書き終わって時間が経っちゃってるからすごくテンション低くて。それが悔しかったので長文で送り直しましたから。

――この作品を通して伝えたいことはありますか?

大春:「おもしろきこともなき世をおもしろく」の部分かなと思ってます。晋作が、それはお前次第だぜって言っていて、作品を見た人が頑張ろうって思えれば一歩前進かなと思います。それは過去の落語作品も全部そうなんですけど、とにかく一歩踏み出せよ、という気持ちは毎度入れています。

――最後に、どんな人に見てほしいか、教えてください。

大春:幕末好き、落語好きにも耐えうるネタは入れていますし、史実を知っていても知らなくても分かりやすくはしてあるので、幕末好き、落語好きも含めて、エンタメ好きに裾野を広げてあります。逆にその幕末嫌いとか落語嫌いの人も、一回見てほしいなと思います。

落語の作品をやるときは、少々年上の年齢層の女性を狙うんですが、佑介くんが演出することで華やかさも出てくるので、若者たちにも見てほしい。

若者は、この作品で吉田松陰に触れて、そこから深く知っていってもいいんじゃないかな。松陰も晋作もこれまで描かれた作品とはキャラクターを変えているので、そういうところも楽しんでもらえたら。

三浦:今回の松陰は人間ぽいですよね。

大春:書きながら、「頭悪いなあ」と思ってましたけどね。でも、こういう人でないと時代は変えられないと思います。

三浦:大春さんの脚本は、すごく門戸が広い。どんな人が見ても楽しめる。落語の作品は人を選ぶイメージがあるけれど、落語本来の門戸広く誰が見ても楽しめるという部分を描いているので、演出としてはそれを後押しして、派手にしたり、笑える部分を増やしたりして、楽しく見られる作品だと思います。やっぱり特に若い人たちに見てほしい。高校生大学生が見たら、すごいテンション上がると思うんですよ。

(ザテレビジョン)

最終更新:9/4(水) 15:46
ザテレビジョン

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