ここから本文です

日米貿易協定、「WTO違反」までして譲歩するのか?!

9/5(木) 18:01配信

日経ビジネス

 日米交渉はまたもや“守り一辺倒”になってしまったようだ。しかも、世界貿易機関(WTO)のルールに違反する協定を締結させられる可能性が高い。

【関連画像】自動車の「継続協議」は“気休め”か?写真はイメージ

 日米は貿易交渉で基本合意に達し、9月中の署名を目指すことになった。交渉責任者の茂木敏充経済再生担当大臣は「国益を守り、バランスの取れたとりまとめができた」と胸を張る。はたしてそうだろうか。

 内容はまだ公表されていないので報道をベースに論じざるを得ない。その報道の目は2点にばかり注がれている。1点目は米国から輸入する農産品に対する関税引き下げを環太平洋経済連携協定(TPP)の範囲内に収められるかどうか。2点目が米国による日本の自動車に対する追加関税を回避できるかどうかだ。

 これは日本側がこの2点に交渉の勝敗ラインを設定したからである。しかしこうした2点を交渉の目標設定にしたこと自体、妥当なのだろうか。

 まず結論を言おう。

 その結果、いずれも米国の思惑通りの交渉を許してしまった。これは日本が交渉戦略よりも国内への見え方、見せ方を優先した結果だとも言える。

 そしてさらに深刻な問題がある。それは大本営発表によってこの2点以外に報道の目が向かず、協定の内容がWTO違反になるかもしれないという大問題を報じていないことだ。むしろ、不都合には目を向けさせないようにしているのではないか、とさえ勘ぐってしまう。

 これまでの日米通商交渉の歴史を振り返ると、今回の交渉ほど日本にとって地合いのいい、有利な交渉はなかっただろう。それにもかかわらず、なぜ、こうした結論になったのか。

 以下ではそれを説きほぐしていこう。

先にカードを切ってしまった農産物

 米国のTPP離脱によって、米国の農家は相対的に競争相手国と比べて日本市場で不利になっている。米大統領選を前にして、この不満を早急に解消するための成果を得たい米国にとって、競争相手と対等の水準にさえなれば不満はない。交渉前にあえて米農務長官がTPPの水準以上の要求発言をしたのも、単なる交渉戦術だ。

 しかし日本はそれをまともに受け取ってしまった。国内の農業関係者の懸念を払拭するために「TPPの水準以上の譲歩はできない」と、交渉のスタート時点である2018年9月の日米首脳会談での共同声明に書き込むことに懸命になった。いわゆる「交渉でこれ以上米国に押し込まれないためのピン止め」だ。そして国内にはそれを成果として誇示した。

 しかしこれは逆に、米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功したのだ。

 関税交渉は本来ギブ・アンド・テークが原則で、一方的な譲歩はあり得ない。かつてTPP交渉でも関税引き下げについては、日米間では日本の農産物関税の引き下げと米国の自動車関税の引き下げがパッケージで合意されたことを忘れてはならない。これは当時、甘利明担当大臣(当時)が米国との難交渉の結果、妥結した成果である。従って日本の農産物関税の引き下げだけという米国の“いいとこ取り”はあり得ないのだ。

●自動車の「継続協議」は“気休め”か?

 本来、米国も日本に対して相応の対価を差し出さなければならない。ところが今回の合意では一部の自動車部品の関税撤廃のみで、完成車の関税撤廃には応じていない。これでは「相応の対価」とは言えないのは明らかだ。

 もともと、米国がTPPから離脱するという自ら招いた不利な状況を早急に解消したいことから交渉ポジションは日本が圧倒的に有利であった。にもかかわらず、交渉は最初から日本がカードを切ったせいで、立場が逆転してしまったのだ。

 今回の基本合意においては、米農産物に対する関税をTPP水準の範囲内で引き下げることだけが合意されて、本来パッケージで合意すべき日本の完成車に対する米国の自動車関税の撤廃については「継続協議」になったという。前述した昨年9月の交渉当初における日本の対応から、私が懸念していた通りの結果になってしまったようだ。(関連記事:日本に巣くう、強烈な「FTAアレルギー」、2018年10月3日)

 今後継続協議といっても、農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った後では、残念ながら“気休め”にすぎない。自動車部品の関税撤廃を米国にある程度認めさせることはできても、本丸の完成車は譲らないだろう。これは米国の思惑通りの展開だ。

1/3ページ

最終更新:9/5(木) 18:01
日経ビジネス

記事提供社からのご案内(外部サイト)

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事