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「さんざんバカにしやがって…」入社数年で辞めた元同僚に罵倒された日

9/7(土) 14:01配信

現代ビジネス

 残る者がいれば去る者もいる──会社とはそういうものだ。しかし去る者の「内面」までも知ることは難しい。大きなディールを前にした「ぼく」の前に現れたライバルは、入社数年で辞めたかつての同期だった。

リーマンショックの裏で、危険な綱渡りに挑んだ証券ディーラーの運命

 証券ディーラーたちの激動の仕事と人生を描く「東京マネー戦記」第20回。

 (監修/町田哲也)

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連載第1回はこちら:「リーマンショックの裏で、危険な綱渡りに挑んだ証券ディーラーの運命」
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「もったいないと思うんだよ」

 米国でトランプ大統領が誕生したのは、2017年のことだった。

 前年の英国のEU離脱を決めた国民投票以来、選挙が金融市場の波乱の種になりつつあった。事前の予想を覆す結果が続き、景気回復に対する期待感と過激な金融政策への警戒感とが入り交じっていた。

 日本でも株価が20%近く上昇する一方で、金利がプラスに転じるなどマーケットは大きく動いていた。資金調達コストの上昇を警戒する、企業からの問い合わせが増えつつあった。

 はじめて市場から資金を調達する企業も、徐々に増加していた。エンターテインメント企業のR社が、社債発行の準備を進めていたのはこの頃だった。引受けをする主幹事証券の選定も数社に絞られ、ぼくが激しく争ったのが同社メインバンクの系列証券だった。

 メガバンク系証券の営業担当者は、尾畑というぼくの元同僚だった。同期入社だったが、入社数年で報酬に納得できずに退職し、その後競合証券への転職を繰り返していた。

 尾畑から夕食に誘われたのは、梅雨入りで毎日のように雨が続く頃だった。

 「こっちだ」

 ぼくが傘をたたんで待ち合わせの店に入ると、尾畑が手を振っているのがわかった。真っ黒に焼けているのは昔からだが、口もとのしわがもう40代であることを示していた。

 「こんなところで申し訳ないな。今日は早く帰らなくちゃいけなくてさ」

 飯田橋駅に近い喫茶店だった。ぼくがこの店を指定したのは、近くの顧客に訪問した後だったからだ。保育園に子どもを迎えに行く必要があり、ゆっくりしていられないことを示す必要もあった。

 「いろんな訪問先で、お前の名前を聞くぞ。もうすっかり有名人だな」

 「そんなことはないよ。君こそ業界を知り尽くしてるんじゃないか」

 最後に会って話したのは、もう10年も前だろうか。ぼくはメニューも見ずにコーヒーをオーダーすると、本題に入ることを促した。

 「今日はお前の、将来のキャリアプランみたいなものがあれば聞きたいと思ってさ」

 「キャリアプラン?」

 「ああ、今の会社でいつまでやっていくのかと思ってな。正直いってもったいないと思うんだよ。お前の実力を引き出せている感じがしないんだ」

 「君がそのアドバイスをしてくれるっていうのか?」

 「興味があれば、うちの上司に引き合ってもいい。ちょうどお前みたいな人材をさがしているところでさ。今はどんなことに興味があるんだ?」

 昔から変わっていなかった。相手が興味を持ちそうなネタを披露しては、こちらの情報を引き出そうとする。話の先が見えたようで、席に着いて5分程度でぼくはうんざりしはじめていた。

 「ぼくが同じ会社で働いたら、君はどうするんだ? 同じポジションに二人は必要ないだろ?」

 「俺はそろそろ卒業させてもらって、もっと広い立場からマーケットを見たいと思ってるんだ」

 ぼくを部下として採用しようというのだろうか。そのいい方に苛立ったのも事実だが、ぼくには証券会社を転々とする尾畑が、上司との間に強いパイプを持っているとも思えなかった。

 30分程度の世間話でその席は切り上げたが、尾畑からのアプローチは、その後かたちを変えて何度か繰り返された。

 ぼくが新作の出版の話を進めていると、どこで聞きつけたのか電話をかけてきたこともあった。部署の仲間でまとめて購入しようかっていう話があるんだ。そんな話を持ち出しては、通話の合間に仕事の探りを入れてくる。そのうちに連絡が来なくなるのは、いつも同じだった。

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最終更新:9/7(土) 14:01
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