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「核保有国」印パが争うカシミール問題、無視できない日本への影響

9/11(水) 17:00配信

クーリエ・ジャポン

インド北部のジャム・カシミール州をめぐり、インドとパキスタンの緊張が高まっている。2つの核保有国の対立は、南アジア、日本、そして世界情勢にどのような影響を及ぼすのか? 共同通信ニューデリー特派員の佐藤大介氏が解説する。
日本では日韓や米中の対立が国際ニュースを賑わしている一方、南アジアではもう一つの大きな対立が起こっている。8月5日に、インド上院が北部のジャム・カシミール州に大幅な自治を認めてきた憲法370条の規定を削除する改正案を、賛成多数で可決したのだ。

インドは人口の約8割をヒンズー教徒が占めるが、ジャム・カシミール州ではイスラム教徒が多数派で、隣国パキスタンと長きにわたって領有権を争ってきた。同州の自治権はく奪の決定はパキスタンを激しく刺激し、インドとの貿易を全面的に停止するなどの対抗措置に乗り出している。
同州ではイスラム過激派も活動しており、治安の悪化も懸念材料だ。忘れてならないのは、インドとパキスタンは互いに核保有国であるということ。両国の緊張が高まれば、日本をはじめインドに進出している各国企業の活動にも大きな影響を与えかねない。

現時点での情勢から、今回のジャム・カシミール州をめぐる今後の展開と、インド経済に与えるインパクトについて考えてみたい。

テロが終わらないのは自治権のせい

まず、理解しておかねばならないのは、自治権をはく奪するとした今回の決定は、決して突然行われたものではないということだ。2019年5月に行われたインド下院選で、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は、選挙公約として、ジャム・カシミール州の自治権の根拠となっている憲法370条の廃止を明確に掲げていた。

下院選ではBJPが圧勝しており、同州の自治権をはく奪するというBJPの主張が有権者の支持を得たとして、2期目に突入したモディ政権が、公約の実行に乗り出したと言える。また、ヒンズー至上主義の影響が色濃く、カシミール問題でも強硬姿勢をとってきたBJPのアミト・シャー総裁が新政権で内務大臣に就任したことも、憲法370条廃止に向けた動きを大きく後押しすることになった。
 
インド政府は自治権はく奪に伴い、これまで州外の住民には制限されていた土地取得を可能にするほか、同州を10月末から2つの連邦政府直轄領に分割し、統治する方針を示している。

シャー氏は8月5日、上院で「カシミールが貧しいままでテロも終わらないのは、憲法370条があるからだ」と述べ、モディ氏も8日、国民向けのテレビ演説で自治権は「パキスタンがテロを広げるために利用した」と批判し、はく奪によって「新時代が始まる」と力説した。同州に与えられてきた自治権によって、モディ首相の進めてきた経済改革が充分に波及せず、社会や経済の発展が妨げられてきたとするのが主張の軸となっている。
インド政府やシンクタンクがまとめた指標を見ると、確かにジャム・カシミール州はインド国内でも発展が遅れている地域と言える。インドの国内総生産(GDP)で同州が占める割合はわずか1%ほど。人口もやはり約1%にすぎず、インド全体が経済発展を続ける中で「取り残された感」は否めない。

だが、同州はいずれの指標でも最下位というわけではなく、社会や経済の発展がさらに遅れている地域もある。同州にだけ向かって「中央政府の直轄地にしなきゃ、あなたたちの住んでいる州は発展しませんよ」と力説するのは、充分な説得力を持っていない。それでも、インド政府が憲法370条を「諸悪の根源」としてやり玉に挙げる背景には、パキスタンとの関係がある。

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最終更新:9/11(水) 17:00
クーリエ・ジャポン

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