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『あなたの番です』黒島は結局何人殺した? 恐怖の殺人リストで振り返る脚本の巧さ

9/11(水) 6:07配信

リアルサウンド

 納得した。『あなたの番です-反撃編-』(日本テレビ系)の最終回、理系の大学生・黒島(西野七瀬)が名前のとおり“クロ”だと判明して、筆者は納得した。主人公の翔太(田中圭)が「主人公の近くに最初からいた“いい子”が真犯人って、ミステリーの王道なんだよ」と言ったとおりの結末だったし、公式サイトで「黒このこだよ」と縦読みで暗示されていたとおりでもあった。他のパターンを考えてみても、もし、二重人格とか双子というトリッキーな設定を最後に出すとしたらミステリーとしては掟破りになってしまう。もしくは、どんでん返しを狙うあまり、中心人物の翔太か菜奈(原田知世)が裏の顔をもつ殺人鬼だったというイヤミス風の結末になったとしたら、半年間の放送で親しみを持ってきたキャラクターに裏切られた気分になっただろう。折返し地点で予想したとおり、ずっと怪しかった黒島が「ジコチューで行こう!」というノリで快楽殺人を重ねていたというのは、順当な結末だったのではないだろうか(参考:『あなたの番です』を深読み考察 真犯人はいったい誰!?  伏線は「反撃編」で回収されるのか?)。

【写真】『あなたの番です』恐怖の殺人リスト

 最終話近くまで黒島にたどり着けなかった警察は無能だが、現実社会で起きる猟奇殺人事件でも警察が推理によって犯人を突き止めることはあまりないので、その意味でもリアルと言えるかもしれない。黒島を演じた西野七瀬の殺人者としては凄みのない、普通の子のような演技も、罪悪感を持てないサイコキラーって案外こんな感じなのかも、とある意味リアリティを感じさせた。

 改めて一連の殺人事件の真相を整理してみると、図表1のようになる。黒島とその崇拝者である内山(大内田悠平)は殺しも殺したり合計8人。しかも、最終的にはお互いのことまで手にかけているわけで、このコンビにはまったく救いがない。迷惑極まりない2人である。もしかすると、このドラマは20話をかけて、アイドルとその熱狂的ファンの危険な関係を比喩として描いてきたのだろうか。それとも、黒島という殺人衝動を抱えた異常者に踊らされ、つい人を殺してしまった他の住民の愚かさを描いてきたのだろうか。

 舞台となるマンション内で殺人が始まったのは、住民会での交換殺人ゲームで早苗(木村多江)が管理人・床島(竹中直人)の名前を書いてから。その夜、床島が死んだのは他殺ではなく自殺だったのだが、床島にショックを与えた早苗を許せない西村(和田聰宏)が彼女を脅し始めたのがきっかけになった。そこから早苗、藤井(片桐仁)、シンイー(金澤美穂)とその仲間、久住(袴田吉彦)へと「あなたの番です」という脅迫状を受け取った人が脅えるあまり、連鎖反応的に殺人を犯していった。そんな真相が見えてくると、最後に黒島が言ったように「人間、誰しも人殺しになる可能性あるんだな」という人間性のもろさを感じさせ、そこに脚本家の福原充則のたしかな手腕を見て取れる。

 ホームドラマや学園ドラマではないサスペンスで、2クールをかけてひとりの連続殺人犯が判明するまでを描くという企画は、日本のドラマでは前例のない試みだった。後半の「反撃編」だけを振り返っても、木下(山田真歩)、総一(荒木飛羽)、佐野(安藤政信)、尾野(奈緒)、二階堂(横浜流星)と犯人に見える人物が次々に代わって、視聴者を引きつけつつストーリーを巧妙に転がしていった脚本には、拍手を贈りたい。

 もちろん、残された謎もある。人狼ゲーム、江戸川乱歩の小説、フィボナッチ比率など意味深なキーワードの伏線も回収されないままだ。それに反応し、裏の裏を読むような細かい推理をしていたネットの考察班にとっては、最終回の展開は順当すぎて物足りなかっただろう。このドラマが盛り上がったのは、毎週、放送終了後に考察班が披露する推理が面白かったところが大きかった。それだけに、黒島が高校生時代に殺人衝動を抑えきれなくなったという過去のエピソードを地上波で放送しないのは、ちょっと残念ではある。

 この日曜ドラマ枠は、日本テレビが会員制配信サービスのHulu(日本事業)を買収した翌年、2015年からスタートし、本編のスピンオフをHuluで独占配信するなど、Huluと連携してきた。ここ2年ほど、本編ドラマの内容は『トドメの接吻』『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』『あなたの番です』のように、謎が散りばめられ、先が読めずに中毒性のあるものになり、それに従ってHulu配信作もサブキャラクターのスピンオフではなく、本編の謎解きにも関わる重要なエピソードが描かれるように。今回、Huluで配信される黒島の過去編も、本編最終回の視聴率が高かっただけに、多くの加入者を集めそうだ。コンテンツビジネスとしてもひとつの成功例になるのではないだろうか。

 今回のキャストは、通常1クールでもヘトヘトになる連ドラの撮影を2クールこなした。応援したくなる推理もののヒーローを演じ通した田中圭を始め、殺されるシーンで迫真の演技を見せた原田知世、ドラマファンの期待どおりの豹変ぶりを見せた木村多江、危ない思考の持ち主を怪演して見事にミスリードを誘った奈緒、後半で新風を巻き起こした横浜流星のアクションなど、演技の見どころも満載だった。特に、久住役の袴田吉彦が、自分自身である袴田吉彦が殺されるという“とんでも展開”や、アパホテル不倫や追悼上映「本当はすごい袴田吉彦」などの自虐ネタを快く引き受けていた姿は印象的だ。そういった仕掛けにも賛否両論あるだろうが、面白い連続ドラマを作ろうというキャスト、スタッフの心意気が伝わってくる作品だった。

小田慶子

最終更新:9/11(水) 10:48
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