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なぜ英国は「決められない政治」を続けているか

9/11(水) 15:15配信

プレジデントオンライン

■先鋭化した首相と議会の対立は議会に軍配

 10月末の合意なき離脱(ノーディール)も辞さないという強硬路線で欧州連合(EU)との交渉を有利に進めようとしてきた英国のジョンソン首相であるが、ここにきてその戦略を見直さざるを得なくなっている。英下院によって離脱交渉の実質的な権限を取り上げられてしまったためだ。

 7月の就任以前からジョンソン首相は、10月末のノーディールも辞さないというスタンスを堅持することでEUに対して圧力をかけようとしていた。ノーディールを回避したいEUが離脱交渉で譲歩してくることを期待していたのだろう。もっともそうした瀬戸際外交を実現するためには、対立関係にある議会を制する必要があった。

 そこでジョンソン首相は、9月中旬から1カ月間、下院を閉鎖するという強硬手段に打って出たが、下院は閉鎖直前に強力な対抗手段で切り返した。次回のEUサミット直後の10月19日までに離脱交渉がまとまらない限り、首相がEUに対して来年1月末まで離脱の期限を申請しなければならないという法律を可決、成立させた。

 この動きに対して首相は、解散総選挙のカードをチラつかせて牽制を行ったが、保守党内からも21名の造反が出たため、離脱延期法は成立することになった。議会は首相から離脱交渉の権限を実質的に取り上げることに成功したのである。ジョンソン首相は9月4日に続き9日にも議会を解散する動議を議会に提出したが、反対多数で否決された。

 当初、最大野党の労働党は早期の総選挙の実施に乗り気であった。そのため9日に動議は可決され、10月15日にも解散総選挙に向かうという観測が有力であった。しかし労働党の執行部は早期の解散総選挙よりも離脱延期法の確定に優先順位を見直し、9日の動議にも反対することになった。現在では早くて11月末の総選挙が有力視されている。

■決められない政治の背景にある様々な「ねじれ」

 離脱延期法が成立したということは、議会の過半が10月末のノーディールを回避したいという意思を持っていることだ。首相の真の狙いはさておき、その瀬戸際外交が破綻すればノーディールになるリスクが大きい点を議会は問題視した。首相の独善的な振る舞いに歯止めをかけたという意味では、英国の議会制民主主義は健全に機能している。

 反面で、議会が首相の方針を拒絶するという展開は穏健な離脱を志向していたメイ前首相のときから常態化している。それではなぜ英国は、こうした決められない政治を繰り返しているのだろうか。その理由はEU離脱を巡って英国政界で生じたさまざまな「ねじれ」にあると筆者は解釈している。

 与党の保守党は先の総選挙で過半数割れし、北アイルランドの地域政党である民主統一党の閣外協力を得ている状況にある。そのため、本来なら一枚岩にならなければいけないが、大量の造反が出たことが示すように離脱の方針を巡る「ねじれ」を党内に抱えていた。首相はそれを力で封じ込めようとしたが、結局失敗した。

■労働党と自由民主党の共闘関係も微妙

 そもそも論になってしまうが、EU離脱を本気で主張していたのは、保守党の一部右派議員に過ぎなかった。理念よりも現実を重視する議員も数多く存在していたわけだが、キャメロン元首相(当時)が国民投票で「パンドラの箱」を開けてしまった結果、この「ねじれ」が保守党を苦しめることになったといえよう。

 同様に、最大野党の労働党も「ねじれ」を抱えている。コービン党首は基幹産業の国有化を主張するなど極左的な政治家であり、労働党本来の中道左派路線とは本来なら相容れない。また反ジョンソン首相で共闘関係にある自由民主党との関係も微妙である。自由民主党の党是である自由主義とコービン党首の極左スタンスは真逆の発想なためだ。

 このように、与党も野党もまとまり切らない。加えて、離脱強硬派として知られるナイジェル・ファラージ氏が率いる離脱党が一定の支持率をキープしている。国政の経験が皆無である彼らが議会に進出すれば、それが新たな「ねじれ」を議会にもたらすことになりかねない。総選挙を実施しても「ねじれ」が解消するとは限らないのである。

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最終更新:9/13(金) 9:35
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