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アーセナルはしてやったり。脱ヴェンゲルで補強は上々。絶対的なノルマは?【粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断(3)】

9/12(木) 10:20配信

フットボールチャンネル

 2019/20シーズンは、夏の移籍市場が終了した。この夏も各チームで様々な移籍があったが、それぞれ主要クラブの動きはどうだったのだろうか。今回はプレミアリーグでおなじみの粕谷秀樹氏がアーセナルの補強を読み解く。(文:粕谷秀樹)

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●移籍市場の最終盤で状況一変

【補強診断】良好
【疑問点】リーダーシップ
【キープレーヤー】トレイラ
【ノルマ】トップ4

 移籍市場がオープンする前、アーセナルの補強費は上限4500万ポンド(約59億円)といわれていた。獲得必須ポイントは一線級のセンターバック、機動力のある左サイドバック、打開力にすぐれたウイングだった。この三点を4500万ポンドで解決できるはずがない。

 案の定、移籍市場の前半はネガティブな情報が先行し、オーナーのスタンリー・クロエンキも「補強費を上乗せする予定はない」と発言したため、アーセナル・サポーターは途方に暮れていた。

 しかし、移籍市場の最終盤で状況は一変する。チェルシーからダビド・ルイスを獲得した。一線級かどうかは意見が分かれるところだとしても、現有勢力を踏まえるとクラブ内では最高のセンターバックである。

 セルティックからキーラン・ティアニーがやって来た。一瞬の加速で敵を置き去りにする、機動力豊かな左サイドバックだ。リールからニコラ・ペペも手に入れた。待望久しいスピードスターで、3節のリヴァプール戦でもあのフィルジル・ファン・ダイクがマジになるシーンがあった。

 さらにローンでレアル・マドリーから優れたパサーのダニ・セバージョスを、「いずれは超一流のセンターバックになる」と各方面で高評価のウィリアム・サリバも獲得している(今シーズンはサンテティエンヌにローンバック)。

 アーセン・ヴェンゲル体制下の晩年はサポーターが首を傾げ、他クラブが失笑する交渉成立も少なからずあった。2011年夏のパク・ジュヨン、アンドレ・サントスなどは、史上に残るパニックバイとして英国メディアのシニカルな企画の対象になってもいるが、今夏のアーセナルはしてやったり。補強すべき箇所をほぼ完璧にカバーしている。リクルート部門の責任者であるラウール・サンジェイ、ディレクターのエドゥもほくそ笑んでいるに違いない。

●強化を合議制に。新時代を迎えるアーセナル

 それにしても、4500万ポンドしか使えないのに、なぜ交渉が順調に進んだのだろうか。クロエンキ(前出)の実子で、今夏の補強に深く関わったジョシュ・クロエンキは次のように語った。

「補強費が4500万ポンドしかなかったかどうかを、公にするつもりはない。極めてプライベートな案件だからだ。しかし、ヨーロッパリーグ決勝でチェルシーにチーム力の差を見せつけられたとき、抜本的に改革しなければならないと強く決心した」

 アーセナルに強い影響力を及ぼすJ・クロエンキの発言だ。リップサービスではないだろう。クラブとしては積極的な補強に努め、ウナイ・エメリ監督を全面的にサポートすることを決めていたようだ。

 高齢の父に代わり、いまや実質的なオーナーと表現して差し支えないJ・クエロエンキは、「この一年ちょっとで、フットボール・オペレイション部門には50人ほどの新規雇用があった」とも語っている。ヴェンゲル体制下のスタッフは、ほとんど退任したようだ。

 いまではJ・クロエンキ氏、サンジェイ、エドゥ、エメリ監督が意見を出し合い、その結果に基づいて補強を図る。ありとあらゆる権限をヴェンゲルが握っていた当時とは、180度異なるアプローチだ。

 はるか先を行くマンチェスター・シティとリヴァプールも、強化は合議制である。この部分だけでも、アーセナルはようやく二強に追いついた。ひとりで全責任を負う在り方は、あまりにも時代後れだ。監督がヴェンゲルからエメリに代わり、オーナーも父から子に権限が移りつつある。いま、アーセナルは新しい時代を迎えた。

●人員整理も着々。ベンゲル体制下ではあり得ない迅速ぶり

 この夏、アーセナルはペペ、ティアニーなどの獲得で、およそ178億円を費やした。アレックス・イウォビをエヴァートンに、ローラン・コシェルニーをボルドーに、カール・ジェンキンソンをノッティンガム・フォレストに放出するなどして、約59億円の収入があった。収支は130億円のマイナス。

『adidas』との年間契約料は約54億円、さらにテレビ放映権料や広告収入、入場料などを踏まえれば、フィナンシャル・フェアプレーを気にする必要はまったくないが、余剰戦力を整理して人的バランスを整えようとしている。

 エメリ監督が「他のクラブを探してくれ」と伝えたモハメド・エルネニーはベジクタシュにローンで去り、買い手がつかなかったショコドラン・ムスタフィはリーグカップ専任か。また、ナチョ・モンレアルは早々とレアル・ソシエダへ移籍した。頸部と臀部の負傷で欠場しているティアニーが復帰すると出場機会が限られるため、賢明な選択だ。

 さらにヘンリク・ムヒタリアンもASローマにローン移籍。ペペとD・セバジョスの加入で存在感が希薄になったとはいえ、市場の最終盤で迅速に動くアーセナルがやけに新鮮に映った。いずれもヴェンゲル体制下ではありえなかった合議制が導いた人事であり、J・クロエンキが軸になっていることは想像に難くない。

●あと一つ、決定的になりないポイントとは?

 そして事実上のボスは「経営的にもチャンピオンズリーグの出場権はMUST」と語っている。したがって、4位以内が今シーズンの絶対的なノルマだ。チェルシーに補強禁止処分が科され、マンチェスター・ユナイテッドは7年連続して移籍市場で失敗した。チャンピオンズリーグの出場権が、アーセナルに巡ってきそうな気配はある。

 ただし、昨シーズンはトップ6内の対決を3勝3分4敗と五分で渡り合ったにもかかわらず、取りこぼしが7つもあった。サウサンプトン、ウェストハム、エヴァートン、クリスタル・パレス、ウォルヴァーハンプトンに敗れ、レスターとのアウェイゲームではポゼッション33%、枠内シュート一本。0-3の完敗だった。

 こうしたていたらくの原因は、リーダーシップの欠如に尽きる。パトリック・ヴィエラが退団した後、言葉で、態度で率先垂範するキャプテンがいなかった。D・ルイスは生まれながらのリーダーともいわれているが、突如として集中力を欠き、お粗末なプレーで迷惑をかけることが3節のリヴァプール戦でも改めて明らかになった。

 ルーカス・トレイラのあきらめない姿勢はヴィエラに通じるものがある。しかし現時点で、アンカーの序列としてはマテオ・ゲンドゥージ、グラニト・ジャカに次ぐ三番手だ。キャプテンには指名しづらい。トレイラのひたむきさはチームの鑑であり、その運動量とインターセプト技術は、軽さが否めないCBの負担を軽減する。アーセナル浮沈のカギを握る男として、重要視されてしかるべきだが……。

 夏の補強により、アーセナルの戦力値が格段に上昇したが、希薄なリーダーシップをカバーしうる人材は獲得できなかった。現キャプテンのジャカは失点につながるミスが多すぎて、キャプテンの威厳を保てそうにない。トップ4復帰の可能性は高いものの、少なからぬ不安材料も抱えている。

(文:粕谷秀樹)

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最終更新:9/12(木) 10:53
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