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村上春樹が愛したクルマ

9/12(木) 16:01配信

nippon.com

滝野 雄作

クルマを通したライフスタイル誌『ENGINE』の10月号(新潮社刊、8月26日発売)に、村上春樹さんが新旧ポルシェに試乗した体験レポートと書き下ろしエッセイが掲載されている。そこにはめったに見せない作家の素顔が――。

私は、自分と世代が近い村上春樹さんの大ファンである。
『風の歌を聴け』と『羊をめぐる冒険』で一気に村上作品の虜になり、以後、新作が発表されるたび、むさぼるように読んできた。
ことに長編が好きで、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』がお気に入り、近作『騎士団長殺し』では準主役の謎の中年紳士「免色さん」に共感している。

それはさておき、ここに紹介する雑誌の特集記事は、村上ファンにとってはたいへん嬉しい読み物になっている。
彼のクルマ好きは、知る人ぞ知るといったところかもしれないが、これほど無邪気に車と戯れる姿を見せるのは、かなり珍しいことではないだろうか。

今年の7月某日、場所は千葉県袖ケ浦市にあるサーキットコース。編集部の誘いで、本国のポルシェ・ミュージアムが所蔵する1956年型の「356Aスピードスター」と、発表会用に日本に持ち込まれた最新の911、992型の「カレラS」に試乗したそうである。

一枚コートを脱いだような感じ

体験レポートでは、同誌の編集者と試乗した感想を対話の形で収録しているが、加減速、ブレーキング、コーナリングについて、村上さんの言葉の端々から彼の趣味嗜好、こだわりが感じられる。
たとえば、新型の「カレラS」に試乗した際には、こんな具合。
<・・・ペダルも軽いし、操作系は全部軽い感じがする。・・・・一枚コートを脱いだような感じかな。>

ハイライトは、「356Aスピードスター」の試乗。
書き下ろしエッセイによれば、高校生の頃に観た映画ポール・ニューマン主演の『動く標的』がお気に入りで、ニューマン演じるところのロサンジェルスの私立探偵が乗っていたのが「スピードスター」だった。それと同じ車に乗れるとあっては、断るわけにいかなかったという。
さて、その感想はどうだったか。
村上さんは、本気で「これ、このまま持って帰りたい」と思ったと書いている。

このエッセイでも、村上さんの「らしさ」が全開。
彼は、この22年ばかりずっとポルシェの「ボクスター」を3台乗り継いできたそうで、縷々書き綴るその説明が、いかにも村上さんらしいのである。

その一端。
<・・・初代のボクスターなんて、もうエンストの巣みたいな車だった・・・でもそういうのを乗りこなしていると(山道でずいぶん練習した)、すごく楽しかった>
<もちろん現今の車の方がずっと楽だし、便利なんだけど・・・なんだか自分がやわになってしまったような気がしてならない。・・・自分の中にある、「少年心」みたいなものがじゅうぶんに満たされていないという不満感が残る。・・・>

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最終更新:9/12(木) 17:05
nippon.com

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