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「家にいるのに帰りたい…」と感じてしまう不思議な心理の「正体」

9/12(木) 8:45配信

現代ビジネス

家にいるのに、なぜ?

 ある1枚のイラストに、ネット上で共感が集まっている。人気4コマ漫画『サボり先輩』からの1コマで、部屋着のままでベッドに腰かけている女性の絵とともに、「家にいるのに帰りたい」というフレーズがデカデカと書かれている。「働きすぎるとこの状態になる」というコメントとともにツイッターに投稿されたことで、反響を呼んだようだ。

死ぬ瞬間はこんな感じです。死ぬのはこんなに怖い

 過酷な過重労働や対人緊張を伴う感情労働による疲労によって、「家にいるのに『帰りたい』」と思うのは、矛盾しているが、確かに実在する心の動きと言えそうだ。この漫画を見て筆者も、大学病院勤務時代の、夜の当直日を迎えた朝の自分を思いだした。

 ただでさえ朝、気持ちもからだも気怠いなかで、これから出勤して、タフな業務をこなしたうえで、夜間当直に入る。夜中にも相談の電話が何回か入り、場合によっては緊急の診察も入るかもしれない。寝不足にもかかわらず、次の日も50人のほど外来診察をこなさなければならない。当直明けの日くらい仕事を早く終わらせたいが、夕方から医局のカンファレンスがあり、指導医としては休むわけにもいかない。

 そうして家にいるのに「早く帰りたい……」と、まだ出勤もしていない朝から、ベッドのなかで重い気持ちになっていたものだ。

 実際に家にいるのに、家に帰りたくなる。ざっと調べてみたが、詳しく考察している記事はほとんどない。これを機会に、現代人のこの心の状態を、心理・精神医学的に考えてみたい。

どこにいても仕事がやってくる恐怖

 2019年4月より、「働き方改革関連法」が施行された。長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方、公正な待遇などの方向性が示されている。しかし、このような法律改正が行われた背景には、人間らしく働く条件を軽視したブラック企業の存在などが背景にあったことは事実である。

 労働時間だけが、ストレスではない。サービス業などは、自分の正直な気持ちを殺して、他人の機嫌を取らなければならない。精神的なストレス、いわゆる「感情労働」の要素が、強迫的な「おもてなし」精神より、医療や教育、何気ないコミュニケーションも含めて、サービス業以外の分野でも強要されている印象がある。

 さらに現代における仕事の特徴としては、インターネットを用いるコミュニケーションツールの急速な発展のおかげで、365日24時間いつでも、しかも世界中どこにいても、瞬時にしてコミュニケーションが可能になったことである

 つい先日も、海外出張中だったわたしのもとに学生からLINE経由で相談があり、その場で速やかに対応した。海外でやや羽根を伸ばしているところに、メールで仕事の依頼ももちろん届く。プライベートと仕事の境界がなくなってきているのを実感する機会が、どんどん増えてきている。さらに、早いレスポンス=スピード感も要求される。

 ネットや働き方改革などが今後発展しても、仕事は平気で家やプライベート空間・時間を侵蝕してくる。このままでは家にいてゆっくりしていても、仕事のことで頭がいっぱいな人は、減らないような気がしてならない。出勤もしていないのに「家に帰りたい」と思うのは、仕事がプライベートに侵蝕して居座るストレスと見ることもできる。

 ちなみに、諸外国の文化でこのような心理現象があるのかどうかは、定かではない。ただ、西洋文化は、旧約聖書による「仕事は、神から与えられた罰である」という観念から、仕事よりも家族・プライベートが優先される。もしかしたら、日本人に多い、あるいは特徴的な現象の可能性もある。外国人から見た『サボリ先輩』の感想を聞いてみたいところだ。

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最終更新:9/12(木) 11:10
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