ここから本文です

埼玉西武・若獅子リョウさんが身をもって教える「人生がときめく美しき戦力外の作法」

9/13(金) 11:00配信

文春オンライン

 別れには作法があります。当事者間だけであればメールで一方的に……ということでも通じるのでしょうが、相思相愛で「契り」を交わした間柄であるならば、そこには一定の段取りが必要です。いつの間にか息子夫婦や娘夫婦が離婚していたらビックリしますよね。ご両親だって「また勝手なことして」と愚痴くらい言いますよね。

この記事の写真を見る

 たとえば阪神の鳥谷敬さん。

 他人事ではありますが、あの別れ方はナイと思います。鳥谷さんは自由獲得枠での相思相愛の入団から、阪神一筋で生きぬいてきたミスター・タイガースの系譜に連なる選手のはず。阪神一筋での2000試合出場、2000本安打、1000四球。幾多の記録を作り、選手会長・主将を歴任してきました。このクラスの選手との別れは選手・球団という当人同士だけでなく、ファンという「親」からの赦しとともに笑顔で迎えるべきもの。義理の親であっても15年も一緒にいれば親子の情がわきます。それを無視されれば、憤りもします。どうなってるんだ、と。

※これから1600字ほど阪神の話がつづきますが、自分のところのベテランに置き換えて読んでやってください。

美しい別れの条件は「理由」「安心」「未来」

 美しい別れには「理由」と「安心」と「未来」が必要です。

 まず納得できる「理由」。プロ野球選手にとってのそれは「チカラがなくなった」です。もちろん野球賭博とか盗んだバットを売り飛ばすとかチカラとは関係ない理由での別れもあるでしょうが、第一にはチカラ。しかるに鳥谷さんは、昨季・今季の成績は確かに低調ですが、2017年は全試合に出場して打率.293、143安打を放っています。OPSでも.767と十分にチカラが認められる数字。4億円はちと高いかもしれませんが一流の成績です。2018年、よくなかった。2019年、ダメだった。なるほどチカラの衰えはあるにせよ、これまでの長く連続した活躍を思えば、「話は3年見てから」でしょう。

 だって、2年目の不振で進退の話になるというのは、「1シーズンの不振で潮時と感じ」「2シーズンの不振で決断する」というスピード感じゃないですか。それはタダの1シーズンも不振を許さないという意味ですよね。1シーズンの不振は「不問」。2シーズン連続して「不安」。3シーズン不振が連続して初めて「不満」となり、これからどうするかという話を切り出すのが「ミスター」への最低限の礼儀でしょう。

 つまり、2018年・2019年とつづいた不振を受けて「来季は気張らなアカンぞ。頼むぞ」という不安を表明し、2020年のチカラを見て「どや、次のステップを考えてもいい頃やないか」と切り出すのがあるべき姿勢。そして、もしもそこで本人が現役を続行したいと言うのなら、功労者への退職金代わりに「泣きの1シーズン」を贈るのです。右手には「オススメのセカンドキャリア」、左手には「泣きの1シーズン」を握り、好きなほうを選ばせる……それが「ミスター」との別れを迎える作法だと僕は思います。4年、ミスターは最大で4年待つ。そういう球団を僕ならば愛したい。

 別れにあたっての「安心」がないことも美しさを欠く点です。野球で言えば、それは世代交代です。別の人と結婚の誓いを立てて切り出される離婚のように、「もっとイイ選手がいるのでベテランが去っても不安はない」のなら、別れは仕方ないことです。

 鳥谷さんが近年守っていたサードは、大山悠輔さんが占めようか……というポジションです。ただ、「春の大山」をピークに下降線をたどり、打順を下げている状況。夏の終わりにはスタメンから外されたほどで、9月12日に放った13号本塁打は約1ヶ月ぶりのもの。鳥谷さんが意欲を見せるショート、あるいはセカンドあたりも木浪聖也さんと糸原健斗さんがリードしつつも「定位置を争っている」最中であり、状況はまだまだ揺れています。

 今のままではファンの「鳥谷はまだできるかもしれないような気がすると言えなくもないこともないこともないんじゃないかな、知らんけど」という淡い期待が消えないでしょうし、「鳥谷はもういらない」とも思い切れないというもの。ましてや本人をやです。本人に納得があれば、誰に言われなくとも身を退くでしょう。身を退かないというのは納得していないのです。「ミスター」が納得できないままチームを去るなんてこと、赦されないでしょう。

 そして「未来」のなさ。鳥谷さんが思い描く未来、何もないですよね。鳥谷さんは「阪神で納得するまでやる」ことしか考えずに今を迎えているわけでしょう。だからこそ、2014年オフのFA残留もあったし、そこで結んだ大型契約もあったはずです。その契約が切れると同時に縁も切る。水面下で静かに「鳥谷はもう終わりやな」と思いながら契約切れを待っていたことをうかがわせるその振る舞い。まだ大減俸という手があったじゃないですか。枠は使うかもしれませんが、大減俸で一段刻めたでしょう。一足飛びに「引退勧告」などせずとも。

「これからはコレをやります」と本人が見据える未来があれば、このような幕切れにも、練習後の取材というついでのような場所で退団コメントを発表するなんて事態にもならないのです。「阪神で納得できるまでやる」という唯一の未来を見失った姿。それは離婚はしたけれど行くあてもなく「これからどうしよう」と荷物を抱えるような姿です。長年連れ添った「ミスター」への仕打ちじゃあないでしょう。

※西武の話はこれからしますので、次のページをお待ちください。

1/3ページ

最終更新:9/13(金) 11:36
文春オンライン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事