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「SFが好きすぎる」伴名練の短編集が1週間で5刷の大ヒット

9/14(土) 8:00配信

Book Bang

 その昔、富野由悠季(よしゆき)監督が『新世紀エヴァンゲリオン』に触れて「庵野(秀明)くんはアニメが好きすぎる」と評したのを聞いたことがありますが、その伝で行くと、伴名練(はんなれん)はどう見ても“SFが好きすぎる”。古今東西のSFを読みまくり、過去の名作への目配せや本歌取りを自作に大量投入する。「日の下に新しきSFなし」という諦観を前提とするディープなその作風が災いしてか、世間的な知名度はほぼゼロ。京都大学在学中に日本ホラー小説大賞短編賞を受賞したデビュー作『少女禁区』から9年、もっぱら同人誌にぽつぽつ短編を書くだけだったのだから無理もない。

 ところが意外にも、それらの超マニアックな短編を集めた初のSF作品集『なめらかな世界と、その敵』がジャンルの壁を超えて読者の心をつかみ、SNSを通じて大評判を呼んで予想外の大ヒット。なんと、発売1週間でたちまち5刷に達したとか。

 もっとも、質の高さは最初から折紙付きで、表題作を含む収録6編のうち4編は、同人誌初出ながら、いずれも創元SF文庫の『年刊日本SF傑作選』に採録されている。それらの作品が、『かぐや様は告らせたい』で知られる漫画家・赤坂アカの描き下ろしイラストを表紙に使った1冊のハードカバーにまとまることで、各編に共通する色が浮かび上がり、また新たな輝きを放つ。

 しかし特筆すべきは、この本のために書き下ろされた巻末の新作「ひかりより速く、ゆるやかに」だろう。修学旅行の帰路の新幹線「のぞみ」で前代未聞のありえない“事故”に巻き込まれた同級生たちを、旅行に参加できなかった“僕”が外側から見守り続ける。SFならではの突拍子もない設定から、思春期特有の切なさを蒸留し、オールタイムベスト級にエモいSFを実現した、2019年の日本SF最高のサプライズ。なお、本書の紙版単行本は、著者の意向により、印税の全額が京都アニメーションに寄付されるという。

[レビュアー]大森望(翻訳家・評論家)

新潮社 週刊新潮 2019年9月12日号 掲載

新潮社

最終更新:9/14(土) 8:00
Book Bang

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