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シャネルのJ12がフルモデルチェンジ!──時計革命・第2章

9/15(日) 20:11配信

GQ JAPAN

2019年に大きく変わったシャネルJ12。見た目はほぼ同じだが、パフォーマンスは大きく向上した。時計メーカー以上の生真面目さをもって、シャネルはJ12にいっそうの磨きをかけたのである。時計界に革命を起こした傑作はどこを変え、何を変えなかったのか?時計ジャーナリストの広田雅将が解説する。

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生半可なスポーツウォッチが足下にも及ばないほど、J12は高いパフォーマンスを得た

シャネルというメゾンはあまりにも高名なので、大体、好き嫌いがはっきり分かれてしまう。かくいう筆者もそういう好き嫌いによって判断する一人だった。服飾はさておき、シャネルの作る時計は普通じゃないか、なぜあんなに値段が高いのだと。しかし、これは大きな誤解だった。シャネルというメゾンは、見聞きした限りで言うと、多くの時計専業メーカー以上に、真面目に時計に向き合っている。そういった姿勢を声高に主張しないのは、彼ら・彼女らの矜持であって、であれば、ここで代弁をしようと思う。

シャネルのアーティスティック ディレクターだったジャック・エリュが「J12」を企画したとき、彼はシチュエーションを問わず使えるものを考えたという。場所を選ばず、しかも長期間使える時計。そこでシャネルは、当時ほとんど普及していなかったセラミックに目を付けた。硬くて軽い上、決して腐食しないセラミックは、時計のケース素材にはうってつけだった。

しかしセラミックには問題があった。硬いため、時間をかけて磨かないと高級時計ならではのツヤが出ないのである。解決策は製品の価格を上げること。シャネルはセラミックを外装全面に採用し、相応の価格と、そして、価格以上の磨きをケースに与えた。加えてJ12はディテールも凝っていた。どこでも使える、の中には当然デスクワークも含まれる。バックルの張り出しが大きいと、デスクワークの邪魔になる。そこでシャネルは、板バネを内側に内蔵したユニークな薄いバックルを開発した。またこのバックルは、開ける力は弱くて済むのに、一度閉じてしまえば簡単には開かない。腕周りを邪魔せず、爪を傷めないJ12が女性に人気を博したのは当然だろう。

シャネルの関係者は、ジャック・エリュをこう評した。彼は完璧主義者という枠には収まらないほどの完璧主義者だった、と。完成したプロトタイプを壁に叩きつけ、不具合が起きてないかを確認したという。そんな彼の姿勢がもたらしたのが、デルリン製のインデックスである。この素材は極めて軽いため、強いショックを与えても外れにくい。しかし、接着で文字盤に取り付けるのが常識だった。対してエリュは、今までの高級時計に同じく、インデックスの内側に2本脚を立て、それを文字盤の穴に通して固定したのである。コストを考えれば接着で十分だ。しかし、エリュは絶対に外れないインデックスを求めたのである。一事が万事。筆者が色眼鏡で見ていたJ12とは、実のところ、そんな時計だったのである。

2019年、そんなJ12がフルモデルチェンジを果たした。見た目はほぼ従来に同じ。しかし、時計としては別物に進化を遂げた。従来、シャネルが搭載したのは汎用のムーブメントである。信頼性は高く、精度も優れていたが、他社のムーブメントが進化した現在、見劣りしたのは否めなかった。そこでシャネルは、ケニッシというメーカーが開発した、まったく新しい自動巻きを採用したのである

シャネルというメーカーは、売上高こそ大きいが、非上場企業である。そのため、他社に比べて思い切った投資ができる。ロレックスやチューダーの元メンバーが設立したケニッシは、ブライトリングやチューダーにムーブメントを供給している。シャネルはそこに資本参加することで、いきなり高品質な、しかも信頼性の高い自動巻きを得たのである。この自動巻きのパワーリザーブは約3日。加えて、ショックを与えても時間の狂いにくいフリースプラングテンプを持つ。今までのJ12は、確かにどこでも使える時計だった。加えて最新のムーブメントを備えた新しいJ12は、生半可なスポーツウォッチが足下にも及ばないほど、高いパフォーマンスを得たのである。これは本当の意味での、どこでも使える時計ではないか。

ケースの製法も大きく変わった。従来のモデルは、裏蓋がSS製。対して新型は、裏蓋まで一体成形されたセラミックとなった。ケースが一体成形になった結果、気密性はさらに高まり、裏蓋までセラミックになったため、いっそうアレルギーが起こりにくい。老舗の時計メーカーがやるような細かなチューンナップを、今回シャネルはJ12に対して行ったわけだ。あくまで理論上だが、新しいJ12は、今までなら連れて行けなかった場所にも持って行けるだろう。

もうひとつ、強調したい点がある。ムーブメントが一新され、性能が大きく向上したにもかかわらず、シャネルはJ12の価格を大きくは引き上げなかった。価格差は、既存のモデルに比べて数万円の違いだ。シャネルは、一部のメーカーのように「自社製ムーブメント」の採用で値段を大きく上げるような真似をしなかったのである。

正直、シャネルという名前はあまりにも強すぎて、受け入れがたい人はいるだろう。しかし、そういう人にこそ、先入観を持たずに新しいJ12を触って欲しいと思う。ルックス良し、性能良し、そして価格良し。私たちが想像する以上に、シャネルというメゾンは真面目なのである。

文・広田雅将 写真・星 武志@estrellas

最終更新:9/15(日) 20:11
GQ JAPAN

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