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椎名林檎の楽曲が引き出すバンド表現の新たな魅力 ブルエン、UNCHAINのカバーから考える

9/17(火) 17:40配信

リアルサウンド

 BLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)が9月11日にリリースした最新シングル『バッドパラドックス』に、椎名林檎「ギブス」のカバーを収録した。ブルエンが他アーティストのカバー曲を作品として発表するのは今回が初めてである。

 ブルエン版「ギブス」は、田邊駿一(Vo/Gt)の地声が深く響く音域までキーが下げられていて、テンポは原曲よりやや遅い。ピアノやストリングスは入れず4ピースのみによる演奏となっており、重心の低いバンドサウンドで〈あたし〉の内側に渦巻く熱情が表現されている。序盤では抑えられていたボーカルが1番サビで一気に爆発して以降、クライマックスに向かってバンドサウンドがどんどん膨らんでいく、というダイナミクスの付け方は原曲を踏襲したもの。原曲との相違点は様々あるが、中でも印象的だったのはアウトロだ。ギターのリフがフェードアウトしていく形で終わる原曲に対し、ブルエン版はドラムが16分で刻んだあと、ボーカルが再び〈ダーリン〉と歌うことで幕を閉じるアレンジになっている。このようなアプローチをしても生々しくなりすぎないのは、男性ボーカリストが女性目線の歌詞を歌う上でのメリットなのかもしれない。

 バンドによる椎名林檎のカバーといえば、以前、UNCHAINの「丸の内サディスティック」が話題になった。あの曲が当時話題になった理由は、端的に言うと、ジャズやソウルミュージック、フュージョンを根に持つこのバンドの音楽的な造詣の深さや、椎名林檎というアーティストに対するメンバーからのリスペクトがアレンジによく表れていたから。そのうえで、実際完成した曲のクオリティが非常に高かったからだ。彼らの演奏するカバー曲は好評を博し、以降、「Love & Groove Delivery」という名前でアルバム化。「丸の内サディスティック」はその第1弾にあたるアルバム『Love & Groove Delivery』(2013年)に収録された。

 2013年から2015年にかけてカバーアルバムとオリジナルアルバムの両方を3年連続で発表したあと、2016年にはリメイクベストアルバム『10fold』をリリース。既存曲を大胆にアレンジするなかで、“人を踊らすためには、「音を抜いてナンボ」”という見解に辿り着いたUNCHAIN。先に挙げた「丸の内サディスティック」、そして『Love & Groove Delivery Vol.2』(2014年)収録の東京事変カバー「能動的三分間」に、『Love & Groove Delivery Vol.3』(2015年)収録の椎名林檎カバー「本能」――と彼らのカバー曲を聴いていくと、「音を抜いてナンボ」の精神を読み取ることができ、つまり、カバー曲を演奏すること自体がバンドの新たな魅力を引き出すきっかけのひとつになったのだということが窺える。また、椎名林檎および東京事変の曲を毎作カバーしているのは、彼らが椎名林檎というコンポーザーから多大なインスピレーションを受けている証だろう。

 カバーをしてみての感想として、ブルエンもUNCHAINも「曲の構造・コード・歌詞などが勉強になった」という趣旨の発言をインタビューやラジオ番組などでしている。椎名林檎はギターだけでなくピアノも弾ける人物であり、実際、「ギブス」や「丸の内サディスティック」にはそんな彼女だからこその曲の運び方も垣間見える。それを(ピアニストのメンバーがいないバンドである)2組が斬新と捉えたというのは確かに合点がいくし、だからこそ2組ともバンド色の濃い、言い換えると“この曲をバンドでやるとしたら”という自身の考えを強く打ち出すようなアレンジに仕上げている。

 ちなみにブルエンの今回のシングルは表題曲「バッドパラドックス」も興味深い。サビのボーカルが全編ファルセットという彼らには珍しいアプローチで、それに伴い、バンドの音の詰め方も変化。これまでのシングル表題曲はバンドの熱量を一直線で伝えるものが多かっただけに、それとは異なるクールな雰囲気が新鮮に感じられる。「ギブス」含め、総じてバンドの新たなモードを感じさせるシングルとなっているため、今後の展開が気になるところだ。

蜂須賀ちなみ

最終更新:9/17(火) 17:40
リアルサウンド

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