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「イケメンでなくても好き」という大ヒット・ラブソングがスタンダードになった理由【ジャズを聴く技術】

9/18(水) 15:02配信

サライ.jp

第24回ジャズ・スタンダード必聴名曲(14)「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」

文/池上信次

本連載では、ジャズ・スタンダードになっているミュージカル楽曲の作曲家を紹介してきましたが、ジョージ・ガーシュウィン、コール・ポーターに続いて紹介するのは、リチャード・ロジャース(Richard Rodgers/1902~79)です。ロジャースは、生涯に43作のミュージカルを手がけ、900曲以上を作曲。ミュージカルのみならず、映画音楽、テレビ音楽でも活躍し、アメリカのポピュラー音楽界に絶大な功績を残しました。

ミュージカル曲には必ず歌詞があるので、多くの場合は作曲家は作詞家とコンビを組むことになります。ミュージカルは1作で十数曲が使われ、ひとたびヒットするとそのコンビでまた次のミュージカルが作られていくことが多いため、ヒット・コンビほど多くの作品があるともいえます。ジョージ・ガーシュウィンは兄のアイラ(作詞)とのコンビがよく知られています。コール・ポーターは作詞と作曲の両方を手がける才人でした。

リチャード・ロジャースの名曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」

リチャード・ロジャースはニューヨーク生まれ。1919年、17歳のときに作詞家のロレンツ・ハート (1895~1943)と出会い、コンビを組んでブロードウェイで活動を始めます。25年の『ザ・ギャリック・ゲイティーズ(The Garrick Gaieties)』がヒットし(そこからは「マンハッタン」がジャズ・スタンダードとなりました)、以降「ロジャース&ハート」はヒット作を量産。43年にハートが亡くなるまでミュージカル28作、500曲以上を残しました。

ハートの死後、ロジャースは作詞家のオスカー・ハマースタイン2世とコンビを組んで創作を続けました。この「ロジャース&ハマースタイン」も、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』をはじめとした数々の名曲を作り出しました。

ロジャースの活動の詳細は追って紹介していきますが、今回は「ロジャース&ハート」作品でジャズ・スタンダードとなった曲でもっとも有名な1曲「マイ・ファニー・ヴァレンタイン(My Funny Valentine)」を紹介します。ヴォーカルでもインストでも膨大な録音が残されており、ジャズ・ファンならば絶対に知っておきたい、という以前にきっとどこかで耳にしている名曲中の名曲です。

「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、37年に発表されたミュージカル『ベイブス・イン・アームス』の中の1曲。「ヴァレンタイン」は登場人物の男性の名前で、主人公の女性が、ヴァレンタイン君に語りかける歌なのです。歌詞の内容は、「私の、おかしな、笑っちゃうヴァレンタイン君。イケメンじゃないけど、私にとっては芸術作品なの。ヘアスタイルは変えないで、そのままでいて。毎日がヴァレンタインの日なんだから」(そうとう意訳ですけど)という感じです。ミュージカルのストーリーの詳細がわからないので、いわゆる「ヴァレンタイン・デイ」とどこまで関係があるのかははっきりしないのですが、最初にヒットしたフランク・シナトラも、もっとも知られるであろうチェット・ベイカーもいずれもこの歌詞で歌っていますから、ジャズ・スタンダード曲としては、男女関係なく「ありのままのあなたが好き」という素直なラブソングとしてとらえるのがよろしいのではないでしょうか。

ヴォーカルでは54年にシナトラが発表した後、数年の間にチェット・ベイカー、リー・ワイリー、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド、カーメン・マクレエ、アニタ・オデイが録音していますが、これほど短期間に集中して録音がある曲は珍しいと思われます。ガッチリと人の心を掴む歌なのですね。インストでは57年にマイルス・デイヴィスが発表したヴァージョンがよく知られますが、マイルスはその後何度も録音し「看板曲」のひとつとなりました。

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最終更新:9/18(水) 15:02
サライ.jp

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