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インドネシア、汚職捜査機関が「骨抜き」の危機に

9/18(水) 6:00配信

JBpress

 (PanAsiaNews:大塚 智彦)

 インドネシアには「最強の捜査機関」と称される組織が2つ存在する。それは警察でも検察でもなく、「麻薬委員会(BNN)」と「汚職撲滅委員会(KPK)」だ。いずれも国家委員会であり独立した国の捜査組織である。それぞれ麻薬犯罪、汚職犯罪の摘発を精力的に続けており、国民から厚い信頼を寄せられている。

インドネシアの週刊誌「テンポ」9月16日号の表紙。ジョコ大統領の姿勢を揶揄している

 というのも、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権下での悪弊である「汚職・癒着・親族主義(KKN)」の根絶こそが、インドネシアが民主国家として歩み始めて以来の最大の国家的課題であり、かつ現在も各界に汚職が蔓延しているからだ。

■ 「最強の捜査機関」の手足を縛る法改正

 その「最強の捜査機関」の1つ、汚職摘発を担うKPKの捜査は、日本の検察の「秋霜烈日」にも匹敵すると言われるほど、情け容赦なく、閣僚、国会議員、司法関係者などの権力者も次々と摘発し、国民からの喝采を浴びる「正義の組織」だ。

 ところが、そのKPKが今、大きく揺らいでいる。摘発される対象者に国会議員や地方公共団体の首長、政党党首、公営企業や銀行のトップといった「VIP」が多く含まれていることから、国会で「汚職撲滅法改正案」が審議されるようになり、9月17日、ついに賛成多数で可決されてしまったのだ。

 国会はすでにKPK幹部人事にも関与し、南スマトラ州警察本部長のフィルリ・バフリ氏をKPKトップの新委員長に任命している。

 KPK関係者らによると、フィルリ氏はこれまでにKPKによる汚職捜査の容疑者となった州知事らと非公式に接触するなど倫理規定違反の疑いが持たれており、「KPK委員長として不適格」との指摘がなされている。

 KPKが弱体化することはインドネシアのスハルト時代の「負の遺産」である汚職体質を温存するどころか、蔓延を容認することにもなりかねない。そんな懸念から、インドネシアのマスコミも珍しく足並みを揃えて反対の論調を張り、「反対」は今や国民レベルの要望となっている。

■ 改正法の一部不同意を示した大統領

 そこで注目されるのが、4月の大統領選で再選続投を決めたジョコ・ウィドド大統領の決断だ。当初、国会の議案可決を追認する姿勢を見せていたジョコ大統領だが、国民やマスコミの反対論の大きさに配慮し、「改正法の一部修正」を表明して、国民の要求を受け入れる態度を示している。10月1日の新内閣発足に向けて、ただでさえ各政党からの閣僚人選へのプレッシャーが高まる中、改正法で「KPK弱体化」を目論む国会と、「弱体化反対、汚職根絶継続」を望む世論との板挟みの中で、苦しい決断を迫られているというわけだ。

 KPKの権限弱体化につながると批判されている「改正法」の内容は次のようなもの。(1)政治家、捜査機関関係者、政府関係者など5人(国会が指名)からなるKPKを監視する監査評議会の設置、(2)KPK職員の公務員からの採用、(3)KPKが捜査開始から1年以内に逮捕・起訴できなかった場合に捜査続行を終了、(4)捜査上、必要な盗聴など通信傍受は監査評議会など外部機関への許可申請を義務化、(5)KPK捜査官は警察や検察出身者に限定、(6)公訴に関する最高検との調整義務化、(7)KPKによる政府高官の資産調査権の撤廃――である。

 ジョコ・ウィドド大統領はこうした改正法の内容に関して、「通信傍受に関する許可申請や警察官・検察官に限定した捜査官の採用、公訴の際の最高検との調整、政府高官の資産調査権」に関して「KPKの権限の弱体化につながる」として拒否する姿勢を9月13日に示していたのだが、4日後には国会で可決されてしまった。

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最終更新:10/11(金) 18:35
JBpress

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