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ラグビー映画の金字塔『インビクタス』が教えてくれるスポーツの力

9/19(木) 16:56配信

FRIDAY

「ラグビーワールドカップ2019」が、いよいよ9月20日に開幕。開幕戦の「日本VSロシア」の直後には、「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)にてラグビー映画の金字塔『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)が放送される。今回は、この映画の魅力を改めてご紹介していきたい。

傑作ラグビー映画『インビクタス』の名シーンはこちら

『インビクタス/負けざる者たち』は、1995年のラグビーワールドカップを描いたスポーツドラマだ。ホスト国である南アフリカ共和国の代表チームが、人種差別問題や政権交代といった多くの障害・試練を乗り越えて快進撃を続けていくさまを、感動的に映し出していく。

舞台は、1994年。27年もの間投獄されていたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)が、南アフリカ史上初の全人種参加選挙を経て大統領に就任した。平和への一歩を踏み出したかに見えたが、人種差別はまだ国中に蔓延している状況。マンデラは、人々の心をつなぐのはラグビーだと考え、翌年開催のラグビーワールドカップに平和の糸口を探る。しかし、南ア代表は国際試合に連敗し、求心力が急速に落ちていた。マンデラは代表チーム主将のフランソワ・ピナール(マット・デイモン)を招へいし、思いを託す。マンデラに共鳴したピナールは、彼から学んだ“不屈の精神”をチームに注入していく。国と代表チーム。それぞれのリーダーの闘いが始まった――。

◆ラグビーが、分断された国を一つにする

本作が公開から約10年を経ても高い人気を誇るのは、ドラマティックな「奇跡の実話」もさることながら、スポーツが平和の架け橋だと教えてくれるからだろう。

マンデラが大統領に就任するまで、南アフリカ共和国はアパルトヘイト(人種隔離政策)が敷かれ、黒人と白人の間には大きな溝があった。痛ましい事件や争いも相次ぎ、貧富の差は深刻な状況。スポーツにおいても、「ラグビーは白人のもの、サッカーは黒人のもの」といった風潮があり、劇中の冒頭では白人と黒人が柵を隔ててラグビーとサッカーに興じるさまが、印象的に登場する。さらに、代表戦では南アの黒人が敵国を応援するといった描写も見られる。ラグビーというスポーツ自体が、憎悪の対象になってしまっているのだ。

しかし、貧民地区でのボランティアを要請するなど、マンデラの粘り強い代表チームの登用と信頼、ピナールが率先して進めたチームの意識改革で、国全体が少しずつ南ア代表への認識を改め、一体になっていく。

強いから応援するのではなく、彼らを自分たちの代表と認めたから、応援する。マンデラの平和への想いがピナールとチームメイトに伝導し、国民1人ひとりへと伝播していく。そして、自国開催のワールドカップという運命の場で、歓喜の瞬間が訪れる――。差別や偏見にまみれた痛ましい歴史を乗り越えて、その国に住まう全ての人が手を取り合い、国家を斉唱し、「優勝」という同じ目標を共に追いかけるとき、真の意味で「南アフリカ共和国」が誕生する。その姿が、観る者の心を強く揺さぶるのだ。

余談だが、人種を超えた絆や友情を描く本作は、製作においても人と人のつながりを感じさせるエピソードがあった。元々、ネルソン・マンデラが映画化において自分を演じる役者にフリーマンを希望し、その縁でマンデラとフリーマンの関係がスタート。フリーマンは、『許されざる者』(92)『ミリオンダラー・ベイビー』(04)で組んだクリント・イーストウッドに監督を打診し、この豪華な座組が生まれたという。

◆ラグビーの魅力が詰まった1本

映像面においても、『インビクタス/負けざる者たち』は見どころが満載だ。スタジアムの熱気を完全に再現した映像は驚異的で、カメラが試合の中に入り込み、選手と同じ目線で戦況を追いかけるシーンは臨場感満点。選手たちがスクラムを組むシーンを下から見上げるアングルで撮影し、ボールの軌道に合わせてカメラが弧を描くなど、ドライブ感のあるカメラワークも特徴的だ。また、選手たちの肉体と肉体がぶつかるさまを至近距離でとらえており、大雨の中での試合シーンでは、泥がこちらに飛んでくるような錯覚に陥る。

クライマックスの試合シーンは、約30分もの時間をかけて描かれており、ラグビーというスポーツの魅力が、この1本には存分に詰まっているといえよう。今回のワールドカップで初めてラグビーに触れる方にも、入門編としてお薦めしたい。

そして、物語を彩るセリフにも注目だ。27年もの獄中生活を強いられたにもかかわらず、マンデラが説く「過去は過去なのだ。許しが平和への第一歩だ」という言葉は、心にずしんと響く。さらに、彼が虐げられてきた黒人たちに告げる「報復ではない、寛大な心を見せて(白人を)驚かそう」というメッセージや、親善試合の敗戦後にチームメイトにビールを配ったピナールが熱く語る「敗北の味に乾杯しよう。全員自分に誓え、2度と負けてたまるかと」という鼓舞、自国の代表としての在り方を問う「南アは変わる。俺たちも変わろう」など、観る者の気持ちを熱くさせる珠玉の言葉たちが並ぶ。

そしてもちろん、映画のタイトルにもなった詩『インビクタス(ラテン語で、「不屈」を指す)』だ。10代で片足を切断する過酷な運命に直面した英国の詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーがつづった「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」という一節はマンデラの獄中生活を支え、決戦に向かうピナールの背中を後押しする。

ワールドカップ期間中は、本作の真髄に近づける絶好機。試合後の興奮そのままに、もう“1試合”、時代を超えた名作を楽しみ、そしてさらに、翌日から続く試合にも、のめり込んでいただきたい!

文:SYO
映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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最終更新:9/20(金) 18:31
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