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サウジ石油施設攻撃は歴史的転換点、イランは「非対称戦争」で原油相場を人質に

9/19(木) 11:46配信

ニューズウィーク日本版

<イランは軍事戦略の見本のような戦術を展開しており、米国がイランの関与を断定することを困難にしている。果たしてトランプ大統領に打つ手はあるのか>

サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコの東部アブカイクとクライスにある石油生産施設が9月14日未明に攻撃を受け、サウジの石油生産の半分が停止する事態に陥った。イランが支援するイエメンのイスラム教シーア派系フーシ派が無人機10機による攻撃だとして犯行を認めたが、実際に攻撃を受けたのは19カ所に上るほか、フーシ派による従来の無人機攻撃と比較して航続距離や規模、精度が格段に向上しており、米政府は「イランが関与した」との立場を示している。

【動画を見る】攻撃され燃え上がる石油生産施設

だが、巡航ミサイルが使われたのかどうかや、無人機の出撃地点については情報が交錯している。米メディアは、米諜報(ちょうほう)機関が得た情報では攻撃起点はイランのようだと伝えている。イラン核合意から離脱したトランプ米政権が「最大限の圧力」をイランに加える中、逆にイランは自分たちが得意とする、通常戦力が大幅に異なる主体間の「非対称戦争」に持ち込み、米国やその同盟国、原油相場を人質に取ることで、「最大限の圧力」をかけている格好だ。

イランは、代理人(フーシ派)の使用や、否認性といった軍事戦略の教科書が教える見本のような戦術を展開しており、米国がイランの関与を断定することを困難にしている。トランプ大統領は16日、「戦争は望んでいない」としてイランとの直接的な軍事衝突を避ける姿勢を示しており、非対称戦争への対応の難しさが浮き彫りになっている。

探知困難な無人機

イエメン紛争に介入するサウジ主導の連合軍は9月16日、石油施設攻撃に使用された無人機がイラン製だったと発表した。過去のフーシ派によるサウジへの攻撃では、イランから技術供与を受けたとみられる無人機が使われているが、今回は航続距離や攻撃精度から見てフーシ派単独での犯行を疑問視する見方が一般的だ。

ただ、米戦略国際問題研究所(CSIS)のアンソニー・コーズマン上級研究員は、フーシ派は航続距離が最大で1500キロ、全地球測位システム(GPS)を使った精度の高い飛行が可能な無人機を獲得していることが知られていると指摘し、クライスで約800キロ、アブカイクで1000キロ超の飛行は可能であり、フーシ派による犯行の可能性は完全には排除されないとの見方を示している。

イエメン内戦では、軍事介入したサウジ主導の連合軍の中軸を形成してきたアラブ首長国連邦(UAE)が、7月にイエメン駐留部隊の縮小を表明した。フーシ派としては、サウジへの攻撃を強めることで、泥沼化が指摘されるイエメン内戦からサウジを撤退させたいという思惑があり、今回のような石油施設への大規模攻撃を行う意思やメリットはあるだろう。

だが、無人機の数と攻撃箇所の数が一致せず、規模も従来のフーシ派の犯行とは一線を画す。とすれば、フーシ派を支援するイランの精鋭部隊、革命防衛隊との共同作戦だった可能性もある。攻撃を受けたサウジの石油施設の北西方向が打撃を受けており、これを根拠に米国はイラクやイランが出撃拠点になったとも指摘している。

しかし、無人機が旋回して出撃地点を欺くことは容易に想像できる。また、イラクのアブドルマハディ首相とポンペオ米国務長官が15日に電話会談し、「イラクから実行されてはいないことが米国の提供した情報で確認された」とイラク首相府が発表している。

クウェート上空で無人機の目撃情報があるものの、ジェット機のエンジン音に近いなど情報の精度には問題がありそうだ。このように情報は錯綜(さくそう)しており、サウジ石油施設攻撃の事実関係を明らかにするためには、詳細な軍事機密情報の公開を待つほかない。

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最終更新:9/19(木) 19:06
ニューズウィーク日本版

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