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もしも失業したらどうすればいい? 働き方改革へのQ&A

9/19(木) 22:21配信

ハーパーズ バザー・オンライン

休暇は取ってもいいの? もしも失業したらどうすればいい? 会社のパーティに意味はある? リーダーになるために必要なことって…? そんな仕事にまつわる悩みをクリアに解決いたしましょう。今回は、失職について。

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Q:失職は、災い転じて福となす?

A:失敗を恐れてはいけない。仕事を失うことは別の世界に存在するまだ見ぬ可能性を教えてくれるかもしれない。

 その日着ていたものをはっきりと覚えている。皮肉にも「トースト(英語で乾杯の意)」の緑色のコーデュロイのワンピースだ。予期せぬ言葉が耳の中で繰り返し流れる中、私は9階の部屋からテムズ川を見下ろしていた。「あなたの代わりの人を見つけました」。サンデー・タイムズ紙の編集室で取締役の「会社が決めたことなので」という静かな声を聞いていた。その後呆然としてデスクに座っていた私を見た当時のアシスタントは、すぐに紅茶を一杯差し出した。

 私は以前にも解雇されたことがある。それは2002年、デイリー・メール紙でのことだった。10年もこの会社のために尽くしてきたのに。当時の私はデイリー・メール紙の本社があるケンジントンのノースクリフ・ハウスの前で怒りに震えて泣いた。解雇の原因は、家族ができたからパートタイムで働きたいと申し出たからだ。私の失敗だった。しかし今回は当時のような涙さえ出なかった。両親が連続して亡くなり、子どもに慢性的な病気が見つかったことのほうが辛かったからだ。しかしこの先どんなにわびしい数カ月が待っているのかは知る由もなかった。あれから3年たった今、ようやくその辛さを少し整理できるようになった。そしてあの時あのような目にあったことに、感謝すらできるようになったのだ。

失敗に向かってまっしぐらに走る以外の仕事のやり方を、私は一切知らなかった。By ケイト・ブランシェット

 私は3人兄弟の真ん中でいつも人を喜ばせる達人だった。アイデアに溢れて才能を見つけるのが上手で、そういう人材を求めるメディア業界で30年間過ごしてきた。ジャーナリストという仕事も大好きだ。プライベートで何が起こっていようとも、さまざまな出来事、締め切り、同僚のジョーク、私が書いた記事をもとにライバルの新聞社が書くストーリー、そんなことのすべてが日々に活力を与えていた。給料なんて本当はどうでもよかった。

 2016年のある火曜日の午後、すべての流れが止まった。仕事を失ってからというもの、毎朝4時に異常な喪失感とともに5キロは走ったかというほどの疲れを伴って目覚めていた。

 それから6週間後、打ちのめされた我がプライドを連れてヒマラヤ山脈のふもとに一人で降り立った。遠く離れたところからメディアというものの風景を検証してみようと考えたのだ。約1カ月分の給料をつぎ込み、あるリトリートに2週間滞在し、人生を委ねた。ヨガをしマッサージを受け、インフィニティプールで泳ぎ、山を歩き、宿泊者と一緒においしい食事を味わった。携帯電話だけは部屋に置きっぱなしにするように、と言われていた。滞在中にここで着るクリーム色の楽ちんな服は毎日洗濯してもらえる。とても静かな日々。平和で、次にすることだけを考える日々。日が陰っていくあの業界で、これほどまでに日の当たる場所があっただろうか? 気に入っていた業界で立ち泳ぎをするがごとく必死にバタバタして無益に過ごすのか、大胆に知らない海に飛び込むのか。本当はどちらも可能だったのだ。

 偶然の巡り合わせか、自分を見つめる時間を作ったためか、私は自分のまわりに存在する多くのことに心を開けるようになった。そしてこのリトリートで1週間が過ぎた頃、なんと元ネッタポルテCEOのマーク・セバに出会ったのだった。ロンドンに戻った後、彼は私をスタートアップの神、モー・ホワイトに紹介してくれた。モーはグレース・グールドに私の連絡先を伝えてくれた。そしてグレースは小売り技術のスタートアップ会社、SODA Saysに私をクリエイティブディレクターとしてすぐに雇用してくれたのだ。

 いまだに自分でも信じられないことだと思う。私はメールに写真すら添付できず、いつもアシスタントに頼むような甘えた編集者だったのだ。けれども今はスクール・オブ・ザ・デジタル・エイジの頭文字をとったSODAという会社で働いている。なんてことだろうと思うかもしれないが、グレースは私の本来の技術を求めてくれていた。まず書くこと。そしてそれ以上に、私が高齢の女性たちが求めていることを本能的に理解していたから、と彼女は言った。そこは裕福で不思議と眠ったままの市場なのだ。高齢の女性たちが「なんだか役に立つクールなもの」と受け止めているテクノロジーをいかに活用してもらえるか。その風穴を開くことが大切だったのだ。今私は楽しい人々と仕事ができている。

 失敗の力を公にする女性が増えてきた。エリザベス・デイは今年『How to Fail(失敗の仕方)』という本を出版し、アナ・ウィンターもこう宣言している。「解雇は経験するべき。それは偉大な学びになるから」。私自身も失敗は次の行動のきっかけになると実際に学んだ。出世の階段からあっけなく落ちる体験は、当時どれだけ勇気を絞り出しても頼むことができないこと、そしてどんなに高額な給料も置き換えることができないものを与えてくれた。それは自由だ。新しいスキルを身につけること、望む時間帯での仕事、子どもたちの望みに応えること、書評を書くこと、週末女友だちと遊ぶこと、変化の絶えない人生を笑うことなどの自由を手に入れることができた。

 少し前に、毎日15時間ともに働いていた上司に会った。ちょっと戸惑った様子で彼は言った。「君の表情は前とは全然違うね」。たしかに当時の多くの友だちもハイヒールも、消えてなくなった。テック業界はフラットシューズの業界だ。私は前にどんどん進む。けれどもあの緑のトーストのワンピースだけは今も手もとに置いてある。幸運な日の証しとして、幸運な日に着るために。

Translation: Naoko Sugiyama From Harper's BAZAAR October 2019

最終更新:9/19(木) 22:21
ハーパーズ バザー・オンライン

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