ここから本文です

人気商品生み出すUSJマーケターのリーダーシップ

9/20(金) 15:16配信

日経BizGate

マーケターにリーダーシップが欠かせない理由

 マーケターの役割は、消費者や顧客が商品を購入する理由をつくることであり、商品が売れやすくなる環境をつくることであるのは関連記事『USJマーケターのヒット生む思考法』でお伝えしました。また、マーケターが価値を創造・伝達するのは困難な状況にあることもお伝えしました。それは、各部門の統括機能としてのマーケティングの概念が十分に浸透していないこと、日本はすでに必要なモノが世帯に行き渡っている中、人口減少などの将来不安から積極的な消費が見込みにくいことの2つが理由です。こうした状況において価値を創造することが現在のマーケターに必要とされていますが、価値を創造するためには関係部門の協力が欠かせません。価値の創造は、マーケティング部門も含め社内の関係部門がそれぞれの役割を果たすことによってのみ実現するからです。

 そもそもリーダーシップとは何でしょうか。私たちは、「自らが起点となってチームとしての結果を出す行動」と捉えています。そして、リーダーが取るべき行動は3つに集約されます。ビジョンを描くこと、自らが動くこと、そしてフォロワーを獲得していくことです。ビジョンとは、自分たちがなりたい姿であり、その達成を想像するとワクワクするものです。自ら動くということは、ビジョンを達成するための課題を解決する行動です。そして、フォロワーを獲得するということは、関係者にビジョンを共感してもらい、最終的にはビジョン達成のために自らの領域でリーダーになってもらうことです。

 私たちユニバーサル・スタジオ・ジャパンが現在展開しているシーズナル・イベント「ユニバーサル・サプライズ・ハロウィーン」を例に、私たちマーケターがどうリーダーシップを発揮しているのかを説明していきます。

ビジョンを描いて、課題を解決して、仲間をつくる

 現在の国内ハロウィーン・レジャー市場は、バレンタインに匹敵する規模にまで拡大し、レジャー文化として根付きました。この文化形成に私たちは大きく貢献していると自負しています。

 まだハロウィーンが現在の5分の1以下の市場規模だった2011年当時、私たちはハロウィーン・イベントの大幅な拡大にチャレンジしました。それまでは、仮装したゲストと一緒に陽気に盛り上がれるカーニバルをテーマにしたパレード(「パレード・デ・カーニバル」)がハロウィーン・イベントの中心でした。夜の一部には、怖いゾンビが本当に襲いかかってくる恐怖体験の有料イベントを実施していました。私たちは、この夜の体験を無料イベントにして、100体以上のゾンビをパーク中に放ち、恐怖体験をパーク全体で提供することを試みました。クオリティーが極めて高いとても巨大なお化け屋敷のイメージです。この構想を社内に提案したところ、社長をはじめとした全ての関係者が難色を示しました。そもそも、ハロウィーンは仮装して楽しむものというイメージがとても強く、恐怖体験はごく限られた層にしか受けないと認識していたからです。ゆえに、夜に提供していた恐怖体験も週に数回のみ、一部の限られたエリアのみで展開していたのです。

 私たちマーケターは、こうした懸念を真摯に受け止めました。これまで一定の成功を収めているイベントをあえて大幅に変更することに対する懸念は自然の受け止め方だと理解したからです。ただ、私たちには危機感がありました。この危機感は、私たちが掲げたハロウィーンのビジョン達成に対する危機感です。私たちは、ハロウィーンのビジョンとして、「ゲストにありえないワクワクとドキドキを提供することによって、ハロウィーンのメッカになる」を掲げていました。当時のハロウィーン市場はブレーク寸前の状態でしたが、市場が急拡大する前にUSJのハロウィーンを浸透させ、ビジョンの状態に近づけることが重要と考えたのです。こうした危機感を抱えた私たちの当時の課題は、私たちの戦略を完遂すれば私たちのありたい姿に近づけるということを社長や関係部門に納得してもらうことでした。

 私たちは、ハロウィーンの主要消費者である若い女性に調査を実施しました。そこで彼女たちの主要なニーズは、仮装することによって普段は出せない自分を解き放つことだと再認識しました。このニーズは、前述した「パレード・デ・カーニバル」ですでに満たしていました。同時に、私たちは彼女たちも気づいていない深層心理に隠された課題が存在していることを発掘しました。それは、「本当の自分を出せなくて、実はとても窮屈」に感じているという課題です。これは、友人や恋人と一緒にハロウィーン・レジャーを体験しても、同伴者と同じように楽しまなくてはいけないと気をつかって、自分自身は本当に楽しみきれていないという心理です。この本質的な課題を解決するために、「周囲を忘れて大絶叫してしまうホラー体験」が強力な解決策になると考えました。そして、この仮説を検証するために定量的な需要調査を実施しました。また、イベントを無料で実施した場合、来場者数はどの程度増加するのか、その増加と付随した入場料収入などによって、イベントの無料化を補えるのかも併せて測定できるように調査しました。

 調査終了後、改めて社長や関係部門に私たちの考えを説明しました。ハロウィーンを通じて私たちがなりたい姿、それを実現するために、いま私たちが解決すべきターゲット層が抱えている本質的な課題は何か、イベントを無料化にした場合の収支はどうなるのか、戦略を変更せずにこのままの状態を続けていたらビジョンが達成できないことなどを説明しました。そして、社内関係者が抱えている健全な懸念が実際に発生するリスクは極めて少ないことも、調査結果を基にした論理と自信と情熱を持って説明しました。

 集中的な議論の末、最終的には関係者全員が納得してくれました。全員が私たちマーケターを信頼し、「この戦略で挑戦しよう!」と共にビジョンを目指してくれる状態になったのです。その後の関係部門はとても頼もしかったです。夜のイベントを無料にした際の自部門の課題を自ら設定して、その解決策をクリエイティブに考えてくれました。大幅にゲストが増加した際の混雑コントロール、イベントが持つべき収容能力、さまざまなアトラクションを確実に完成させるためのタイムライン管理、イベントをさらに盛り上げるための物販や飲食の商品開発などです。こうして「ありえないワクワクとドキドキ」をゲストに提供するために、各部門がそれぞれの領域で躍動し全社一丸となり挑戦していくことになりました。

 結果、ハロウィーン・イベントの純増集客は約5倍となり、驚異的なゲスト満足度を達成しました。私たちのビジョンに大きく近づいた結果が生まれたのです。

1/2ページ

最終更新:9/20(金) 15:16
日経BizGate

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事