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森永ラムネが大ヒット ブランドへの認識のギャップが成功の鍵

9/20(金) 6:00配信

日経クロストレンド

 これまでパーセプションチェンジの重要性を説いてきたが、第3回は少し視点を変えてみよう。「パーセプションとクチコミの関係」についてだ。商品やサービスに対する認知と認識のずれを「パーセプションギャップ」と呼ぶ。このパーセプションギャップによりヒットしたのが森永製菓の「森永ラムネ」だ。

 パーセプションチェンジの好事例として紹介したアミューズメントパーク「サンリオピューロランド」だが、運営会社のサンリオエンターテイメントの小巻亜矢社長は自著(『来場者4倍のV字回復! サンリオピューロランドの人づくり、ダイヤモンド社』)に、こう記している。「『ピューロランドは、子どもが行く場所じゃなかったの?』 そう意外に思ってもらえれば成功です。意外性が大きいほどインパクトが強くなり、若い人たちの興味や関心を引くことができます」。

 つまり、良い意味での「裏切り」だ。こういうものだろうと思い込んでいたものが、実は違った。しかも意外な方向に。これがクチコミを誘発する引き金になる。この現象は、よく知られた商品やサービスに起こりやすい。そもそも認知がある程度なければ、認識のギャップが生じることは少ない。このことから、パーセプションギャップによるヒットは、世の中によく知られた認知率の高い商品で生まれることが多い。

 その好例が、森永製菓の「森永ラムネ」だ。45年の歴史を持つロングセラーブランドが大ヒットした裏側には、パーセプションギャップ効果が存在している。

 5年ほど前に「森永ラムネが二日酔いに効く」というクチコミがSNSで話題になったことがヒットのきっかけとなった。そうしたクチコミをメディアが取り上げたり、「二日酔いには、ブドウ糖90%のラムネを食べるのが良い」と医師もブログで推奨したりしたことで、ラムネの効果は世の中に広がっていった。

大人向けに開発したラムネが売れなかった理由

 ラムネがSNSを発端に大人に売れ始めたことを契機に、森永製菓はウコンエキスを配合した大人向けの商品「ラムネのチカラ」を新たに開発し、2015年に投入する。メーカーとしては、商機を捉えた当然の判断だ。しかし、興味深いことにこの商品は売れなかったのだ。

 森永ラムネのブランド認知度は85%に達している。その認知には、水色のパッケージに赤色のロゴというビジュアルイメージも含まれる。クチコミが爆発的に広まった本質は、この高い認知の上に成り立つ認識のずれによるものだ。誰もが知っているブランドへの共通認識は、「子どものお菓子」。そこに「二日酔いに効く」という認識が流布される。この意外な裏切りが、クチコミを誘発したのだ。

 ところが、森永製菓が開発したラムネのチカラは、パッケージにウコンをイメージした濃黄色を採用していた。それによって、オリジナルの森永ラムネを想起しづらくなってしまった。オリジナル商品のような、パーセプションギャップの恩恵を狙える商品ではなかったのだ。

 女性向けに16年に発売した「スパークリングラムネ」も同様だ。同商品はかんきつ類やベリー類といった果物を想起させるパッケージを採用していたが、やはり売れなかった。大人向けを意識し過ぎたことが裏目に出て、認識のずれを生み出しにくくなってしまったわけだ。

 これに気づいた森永製菓は、デザインをオリジナルの森永ラムネに合わせた「大粒ラムネ」を開発し、18年3月に発売。これが大ヒットした。オリジナルの森永ラムネの売れ行きが衰えない中、新商品は売れ続け、ラムネ製品だけで4年前と比較して、2倍の売り上げになったという。

●パーセプションギャップがクチコミを生む

 人はさまざまな理由で情報をシェアしたりしなかったりする。米ペンシルベニア大学ウォートン校(ビジネススクール)マーケティング教授のジョーナ・バーガー氏は、人が情報を共有する理由を6つに整理した。「ソーシャルカレンシー」「トリガー」「感情」「人の目に触れる」「実用的な価値」「物語」だ。

 筆者は、PR発想によるクチコミ誘発には、1つ目の「ソーシャルカレンシー」が最も重要だと思っている。ソーシャルカレンシーとは、自分が他人からどう見られたいか、という動機に当たる。ひらたく言えば、「ドヤ顔」できる話かどうか。世の中にはさまざまな情報があふれている。気の利いた話やひねられた話題というのは、それを話している人の印象に影響を及ぼす。

 「誰もが知っているあの商品、実は意外なことに」という話は、ソーシャルカレンシーの動機を程よく満たす。知らない人の噂話には興味を持ちにくいが、誰もが知るあの人の「意外な横顔」となると、ちょっとのぞいてみたくなるのが人間の心理だ。パーセプションギャップは、それ自体がすでにシェアラブル・コンテンツ(拡散性の高い情報)になっている。

 長い歴史を持つブランドのマーケティングは悩ましい。40年、50年と続いているブランドの場合、認知度は100%に近いこともある。商品を知らしめるという活動が必要ないため、認知拡大を目的としたテレビCMを大量投下する必然性がない。

 また、そうしたカテゴリーはすでにコモディティー化しているケースが多く、機能性による差異化も難しくなる。そんなブランドこそ、パーセプションの可能性に目を向けてみるべきだろう。モノづくりを得意としてきた日本には、ロングセラーブランドが多い。次の森永ラムネがどこかに潜んでいるかもしれない。

本田 哲也

最終更新:9/20(金) 6:00
日経クロストレンド

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