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本当に米国はモデルか?

9/21(土) 5:00配信

商業界オンライン

  米国流通業に「学ぶ」道は2つある。

 1つはかつてと同じように米国流通業を神聖視しその前に拝跪して「モデル」にする方法、もう1つはあくまで「傍らに米国流通業をおいて」冷静に学ぶ方法、である。

 だが、もともと経営においては、わずかな例外、例えば黎明期をおいて、「モデルとしてそのままマネる」ということは起こり得ない。明治初期、戦後初期と、それぞれその後の日本の成り行きを見れば、そのことは歴史上も明らかである。

 ところがこと米国の流通業となると、なぜか時計が止まったように、いまだに半世紀前と同じようにそれを神聖視するものがいる。冷めた目で見れば、視察チーム編成が重要な資金源である旅行業務請負業者の宣伝である、ともいえるが。

 今や米国流通業は、「傍らにおいて学ぶ」しかないことは、実は私がわざわざ論じるまでもない。およそ経営の実務に携わるものなら、誰でもそのことを直感で知っている。ただ経営実務を担当するものは、「米国にいかに学ぶか」などという問いをわざわざ発しないから、それを論理立てて考えないだけである。ではなぜ「米国流通業をそのままマネる」という主張が空論か、以下に論理的に証明する。

1.地価家賃建築コストが、出店コストに占める割合の高さ:日本の流通業は米国のそれに比べ、およそ1店出店について約3倍のコストがかかる。従って単純にいっても、出店のスピードは比べものにならない。出店はスピードがスピードを生む作業である。

2.出店適地の少なさ:人口密度の低い米国に比べ、日本はもともと人口が集中している。しかも平地の多い米国(や中国あるいは欧州諸国)に比べ、日本ほど起伏に富んだ国はないことは「ブラタモリ」を見なくても、すぐ分かる。

 それは地価の高さ以前に、まずその格差をもたらす。だが出店は山間僻地ではなく、客の集まりやすい場所を選ばなければならない。そこが地価の高いところであるのはいうまでもない。店舗建築コストも世界一である。なぜなら同じワンフロアでも、例えば消防法の規制1つとっても、それは世界で最も厳しい。

3.それが1店当たりの売上げに及ぼす影響:出店に3倍のコストがかかるとすれば、単純にいって、売上げや利益も3倍出さねばならない。とすればますます出店の適地は限定されてくる。それだけではない。

4.そこでそれは品揃えに影響する:3倍の売上げを上げるには、少なくとも米国よりきめ細かい品揃えが必須である。米国流通業の人々が日本の店を見て異口同音に発するのは、その職人芸にも見紛う体のきめ細かさである。

5.それは組織に影響する:一部の懐古主義者が今なお信じている米国流通業の本部集中の画一売店チェーン方式は、成立しない。米国は店舗の人件費コストダウン担当者の「ストア・マネジャー」による低廉外人労働力利用でこと足りるが、日本では本部集中の場合でさえ、単純な「ストア・マネジャー制」では運営できない。

 なぜトランプがテロを理由に、かつて一部の外国人の入国制限を指示し、メキシコ国境に壁を作ると言ったか。体裁屋でしかなかったオバマと違って、さすがトランプはその行動に必ず自らの利害を考えている。彼は、低廉外人労働力の流入が米国人労働者にマイナスの影響を与えている、という評判を自らの人気高揚に利用しようと図ったのである。それは上記の「ストア・マネジャー」による低廉労働力利用の存在を証明している。それは「画一売店チェーン+マニュアル運営」でこそ実現可能である。

6.投資ファンドの動き:いちいち事例は挙げないが、米国流通業に投資ファンドが食い込んでいることは周知の事実である。資本主義で最も重要なのは、実は配当・収益率・利率ではない。時間の早さである。1年で2割の収益しか増やさない投資先と10年で5割の収益率を上げる投資先があるとき、ファンドはどちらに投資するか。

 ここに1、2で指摘した出店の容易さが問題になってくる。米国流通業がウサギのように速く走ることができるとすれば、日本の流通業は亀のようにゆっくりと進むしかない。「米国流通業をそっくりそのままマネればいい」などという太平楽が述べ立てられるのも、日本の流通業のスピードが、米国に比べ遅いからである。まだある。

7.客の「うるささ」の度合の違い:日本の客の方がはるかにうるさい。ウォルマートのスーパーマーケットが、日本で成立しないのは、そのためである。ここで「うるさい」というのは、外人観光客がいう「接客」や「オ・モ・テ・ナ・シ」などのことではない。例えば、その食品の「味」についてのうるささである。そのことは、日米両国のテレビ番組の相違を見ればすぐ分かる。日本のテレビは、私にいわせれば異常なほど、「食べ物」に関する番組が多い。まだあるが、これぐらいにしておこう。もともと違った国が違った、ということを証明すること自体、滑稽である。

 だが高踏な?「提言」の読者は、ここまでのあまりにも当たり前に過ぎる話にあくびが出ているだろうから、ここに驚きの?ネタばらしをしておこう。

 以上挙げただけでも7点の日米異なる事情にもかかわらず、米国を超える驚くべきチェーン店開店を成し遂げてきた日本のチェーンがある。私はそのチェーンを念頭に置きながら、読むものがいつになったら、私のネタに気付くか、いわばテストしてきたのだ。それはいわずと知れた、セブン-イレブンである。セブン-イレブンから以上の全てを見直してみよ。

 およそ世の「セブン-イレブン本」は、セブン-イレブンに「経営」の方法を学ぶことに専らである。だが、セブン-イレブンに最も学ぶべきことは、実はその出店戦略の巧みさである。セブン-イレブンの最大の戦略は、以上に指摘してきた、米国に対比しての日本の「チェーンづくり」に立ちはだかる困難を、逆手にとって?フランチャイズ・チェーンという方法を採用したことである。その商勢圏の選び方とそこへの集中出店だけ見ても、2の事情の見事な活用が分かる。

 といえば、だがフランチャイジーにとっては同じ難題が降りかかるのではないか、と思われるだろう。だが、そうではない。なぜならフランチャイジーは、事実上「企業」というより「個人営業」である。自分所有の土地なら、逆に持っているだけでは、売って初めて一生で一度の利益の手に入る「高地価」を、長期にわたって収益を生む資源にできる。

 しかも「うるさいお客」に売る「商品」の心配は、一切しなくていい。きめ細かい品揃えも、個店ごとにできる。だから(あくまで米国と比べてで、日本では当然だから誰も3倍と自覚していない)1店当たり売上げを上げることもできる。だから投資ファンドも以上の7点を勘案して、日本の流通業出資には臆病になっているのである。

※この原稿は島田陽介先生のアドレス宛に、メールアドレスを送付した方に毎月不定期に送られる「今月の提言」から抜粋したものです。

島田 陽介

最終更新:9/21(土) 5:00
商業界オンライン

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