ここから本文です

玉置浩二さんの生歌 力を抜かないすごさ(井上芳雄)

9/22(日) 17:12配信

NIKKEI STYLE

井上芳雄です。今年一番感動したコンサートを紹介したいと思います。7月に東京芸術劇場であった玉置浩二さんの「プレミアムシンフォニックコンサート2019」です。ロシア国立交響楽団のフルオーケストラをバックにした公演でした。初めて生で玉置さんの歌を聴いて、すごく感動したし、勉強にもなりました。僕が黄泉の帝王トート役で出ているミュージカル『エリザベート』の公演期間だったので、次の日から玉置さんに倣って歌い方を変えたところ、歌が安定して、いい調子が続いています。
玉置さんとは親交があるわけではなく、以前から玉置さんの歌が好きで、CDを聴いたり映像を見たりしていました。生で聴きたいと思っていたのですが、なかなかタイミングがなく、この夏ようやくその願いがかないました。
コンサートでは、玉置さんの一声目から涙が出そうになりました。最近は何かを見たり聞いたりしても、深く感動したり、ましてや泣くことなどあまりないのですが、今回は声を聴いただけでグッときました。一声目だから、歌詞の意味も分かりません。理屈じゃなく、何か伝わるものがあったんです。
いろんな曲を歌われましたが、どれもすてきでした。マイクを通しているし、大きなホールでフルオケをバックに歌うのは大変だと思うのですが、声の使い方や、息を交ぜたりして歌うのがとても上手。それに加えて、リズム感が素晴らしい。ヒット曲の『田園』にしても、リズムが激しくて速いので、フルオケにあまり向いてない曲だと思うのですが、玉置さんは自分でリズムを作り出して、オケを引っ張ってましたから。
一番勉強になったのは、玉置さんの歌い方。1音1音に等しくエネルギーを込めているんです。それが分かったのが、『メロディー』という曲。歌詞の「メロディー」というところでファルセット(裏声)になるのですが、それまでの僕の意識では、ファルセットは薄い声なので軽く出すというものでした。「メロ」まではちゃんとした声だけど、「ディー」のところはちょっと力を抜いて高く出す。僕なら、そう歌っていたと思うんです。
ところが、玉置さんは違いました。歌っている顔を見ていると、「ディー」も力を抜かない。僕が思っていたのと正反対のパワーというか、「メロ」よりも「ディー」の方にエネルギーを使っているんじゃないかというくらいの表情でした。玉置さんは、ファルセットであろうが、同じ力で歌っている。だから伝わるんだ。目からうろこでした。
もちろん発声の常識として、例えばピアニッシモ(きわめて弱く)でも、フォルティシモ(非常に強く)と同じ力で歌うというのは教わっています。知識としては知っていたけど、それがどういうことかを実感するのに、『メロディー』がすごく分かりやすかった。ふに落ちたんですね。
玉置さんの歌い方だと、歌詞が全部分かります。知らない曲もたくさんあったし、フルオケだから音の反響も大きいのですが、詞がはっきり聴き取れる。それはたぶん、どの音にもちゃんとエネルギーを使って歌っているから。すごく大切なことだと思いました。
それで次の日から、僕がトート役で出ていた『エリザベート』の公演で、玉置さんに倣って歌うようにしてみました。ものまねをしたわけじゃなくて(笑)、例えばファルセットにしても、音を抜くのではなくて、エネルギーを使う。曲の全部をそういう気持ちで歌うようにしました。そうすると調子がいいというか、安定するので、それからずっとその歌い方で通しました。
今年のトート役では、共演者から「最近、歌い方を変えましたか」と聞かれたり、お客さまからも「何か違いますね」と言われたりしたのですが、実はそんな変化があったんです。
音を抜かないというのは、楽をしないということ。楽に音を出せるところはそれなりの力で、大変なところではエネルギーを使うというのではなく、力を振り分けずに、等しく込める感じです。すると高い音だから頑張らなきゃということもなく、ずっとつながっているというのかな。急に頑張ると、「うっ」となったりするのですが、それが全然なくなりました。そういう意味で、歌が安定しました。
小さな声で歌うときも、体全体を使っているけど、出る声は小さくというほうが繊細になります。強弱が失われることにはならず、むしろ小さなところはより小さくなります。

1/2ページ

最終更新:9/23(月) 7:47
NIKKEI STYLE

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事