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ニューヨークの海でクジラが急増、復活の理由は

9/22(日) 9:10配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

2011年には5頭だった目撃数が、2019年はこれまで377頭も

「潮を吹いたわ!」

 動物研究家のセリア・アッカーマン氏が、興奮した声で船長に呼びかけた。「緑のブイの後ろ!」

ギャラリー:話題!集団で「立ち寝」をする巨大クジラ 写真10点

 全長30メートル弱のアメリカン・プリンセス号に乗り、ホエールウォッチングに出発してから30分が過ぎていた。場所はハワイでもアラスカでもない。米国の大都市ニューヨークだ。

 30人ほどの観光客が船の手すりに駆けよる。まもなく、ザトウクジラの特徴的な輪郭が海面に現れた。歓声が船上に響く。「クジラは見るのは初めて。本当にすごいです」と話すのは、イタリアのフィレンツェから家族で旅行に来たミロ・バルトロッタさん(15)。

 これは、20年前には想像もできなかった光景だ。当時、ニューヨーク市周辺の海は世界最悪レベルの汚染で、ごみと化学物質が混ざった毒入りシチュー同然だった。しかし、水質浄化法や種の保存法、海産哺乳動物保護法といった数々の環境政策が功を奏し、クジラが戻ってきた。

 2011年、非営利団体「ゴッサム・ホエール」がザトウクジラ5頭の目撃例を記録して以来、ニューヨーク市沖で目撃される鯨類の数は飛躍的に増えている。2018年には、目撃数は延べ272頭に跳ね上がった。その記録は、今年さらに塗り替えられ、すでに延べ377頭がニューヨーク周辺の海で記録されている。複数の種がいるが、その多くはザトウクジラだ。

なぜ復活したのか?

 クジラたちは、なぜこれほどの復活をとげたのだろうか。「私に会いに来たんじゃないでしょうか」と笑うのは、ゴッサム・ホエールの設立者であるポール・シーズワーダ氏。同団体は、商業ホエールウォッチングを行うアメリカン・プリンセス・クルーズ社と提携し、観光客に、安全な距離からクジラを見る機会を提供している。

 復活をとげた実際の理由は、水質が改善されるにつれ、藻類や動物プランクトンといった海の微小な生物が回復したこと。これが、プランクトンなどを餌とするメンハーデン(ニシン科の魚)の復活に結びついた。群れを成すメンハーデンは、クジラの好物だ。

 メンハーデンをレストランのメニューで見かけることはないだろう。脂が多く、においがきつい。だが、クジラにとってはキャビア並のごちそうだ。夏の間に腹いっぱい食べて脂肪を蓄え、冬になると熱帯の海に戻って繁殖する。

 船べりから海の中をのぞき込むと、メンハーデンの大群が渦を巻いているのが見える。捕食者から身を守るために集団を作るのだ。漁師たちはこの球形の群れを「ベイト・ボール」と呼んでいる。

 クジラが戻ってきたもう1つの理由は、漁など人間の活動から海洋哺乳類を保護する法律ができたことだ。かつて、数世紀にわたる捕鯨で、ザトウクジラは絶滅寸前に追い込まれた。

 ニューヨーク市沖の海を行き来していたクジラの数や種類はわかっていない。だが科学者たちは、クジラが重要な頂点捕食者だったと考えている。そして、大西洋岸最大の都市にクジラが戻ってきたことは、この海の長期的な健全さという点で良い兆候だと見ている。

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