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インドネシアで民主化「後退」の兆し

9/22(日) 8:00配信

JBpress

 (PanAsiaNews:大塚智彦)

 インドネシアで30年以上にわたって独裁体制を敷いてきたスハルトが大統領を退任したのが1998年。それ以降、徐々に進展してきたインドネシアの民主主義が、ここにきて後退しかねない事態が相次いでいる。

ジョコ大統領の政治姿勢を揶揄する「テンポ」9月16日号の表紙

■ 刑法改正案に国民が猛反発

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は9月20日、記者会見を開き、国会での可決が目前となっていた刑法改正案について、審議・採決を当面見合わせるよう求める異例の要請を議会に対して行ったことを明らかにした。

 というのもこの刑法改正案には、報道の自由を抑制する内容が含まれており、国民の間で猛烈な反発が広がっているのだ。最近は刑法改正に反対する民衆によるデモ隊が、連日、国会前に押し寄せる事態になっている。

 しかも、4月に実施された大統領選・総選挙で選出された新議員による国会が10月1日に招集される。そのような状況もあり、「(現国会の)任期満了直前に反対論が強い法案を拙速に採決する必要性はない」という政治的判断が、ジョコ大統領側に働いたのだと見られている。

 刑法改正案の中で国民が問題視している点は主に、(1)正副大統領、政府、裁判所、公的機関などへの侮辱、虚偽報道、不確実な情報の流布、死者の名誉棄損、宗教への侮辱といった「報道や言論の自由」に対する罰則強化、(2)配偶者以外との性的関係の禁止、未婚カップルの同居、人工妊娠中絶手術の禁止など「基本的人権」に関する規制強化、(3)企業犯罪取り締まりの強化、だ。

 このうち「報道・言論の自由」を脅かすとされる条項に関しては、「インドネシア独立ジャーナリスト連盟(AJI)」が「報道に携わる者を犯罪者に陥れる可能性があり、報道の自由を損なうものである」として反対を表明。

 雑誌「テンポ」が9月16日号の表紙に、嘘をつくと鼻が長く伸びるというピノキオになぞらえたジョコ・ウィドド大統領のイラストを掲載したが、刑法が改正されると、こうした表現も「大統領に対する侮辱」の対象となる可能性もあるという。

 さらに「婚外者との性的関係」や「婚外カップルの同居」についてはLGBT(性的少数者)の人権や個人のプライバシーを著しく侵す可能性があるとして、人権保護団体やLGBT団体が採決に反対している。

 また「婚外者との性的関係」や「婚外カップルの同居」に関しては、外国人観光客にも適用される可能性があるという。そのため「個人のプライバシーを侵害するものである」との法律学者の指摘や「海外からインドネシアを訪れる未婚カップルの観光客などの減少につながるかもしれない」という観光面への影響を懸念する声も出ている。

■ 100年前の植民地時代の現刑法

 実は現在施行の刑法は、今から約100年前、オランダ植民地時代の1918年に導入された「旧法」だ。そのことからヤソナ・ラオリ法務・人権相は、「現代の社会にマッチした刑法に改正するのが目的である」と改正の正当性を強調している。

 さらにヤソナ大臣は、「全ての条文に議員の全員が賛成している訳ではない」と慎重論があることを認めつつも、「全員の承認を得ようとすればいつまでも改正はできない。多数の賛成で採決することに問題はない」として、あくまで改正法は議会多数の賛成に基づいて可決成立されるとの立場を繰り返し強調している。

 刑法改正法案は9月18日に議会の法務委員会では可決されており、24日の本会議で可決成立する予定となっている。ジョコ大統領はそこに「待った」をかけたわけだ。もしそこで成立した場合は、準備期間を経て2021年から施行されることになる。

 こうした国会の動きに対し、民衆の抗議運動もさらに活発化している。言論の自由やLGBTの基本的人権などを訴える団体メンバーや学生組織は、国会正門前や日曜日に歩行者天国となるジャカルタの目抜き通りスディルマン通りなどで抗議の集会やデモ、パフォーマンスなどを繰り広げて国民世論に反対を訴え続けている。デモの影響で国会周辺の交通は連日マヒ状態に陥っているほどだ。

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最終更新:9/22(日) 8:00
JBpress

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