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山小屋約40軒が孤立、ヘリコプター便不通で浮上した「日本の山の危機」

10/7(月) 6:01配信

ダイヤモンド・オンライン

 「登山」を取り巻く知られざる構造問題に迫る「登山の経済学」(全6回)。夏山シーズンを目前に控えた今年7月。新潟、長野、岐阜、富山の4県にまたがる北アルプス地域で登山客を迎える山小屋約40軒への物流が、ヘリ便の運休により途絶えるという事件が起こっていた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

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● 膨張する登山市場に迫る危機 “民営国立公園”に黄信号

 多くの登山者の憧れの地、北アルプス。新潟県、富山県、長野県、岐阜県にかけて標高3000m級の山々が連なり、槍ヶ岳や劔岳などの名峰がそびえる。登山口から徒歩10時間かかる山奥も、シーズンともなれば団体ツアー客でにぎわう。そんな山岳地帯で営業する約40軒の山小屋が、この夏“孤立”する事件が起こっていた。

 「食料が届かず、スタッフみんなで山小屋の周りの山菜を採ってしのいでいました。夕食は毎日お芋と山菜の天ぷらばかりでした」と三俣山荘を経営する伊藤敦子さんは言う。他の山小屋では夏山シーズンを目前にして、営業開始の延期に追い込まれたところもある。

 原因は、ヘリコプターだ。

 北アルプスという、日本で最も人気の高い山域への食料や燃料などの必要物資の輸送は、山小屋ヘリ荷上げ事業でトップシェアの東邦航空が実質ほぼ1社で支えている。その頼みの綱の同社のヘリが、悪天候と機体故障の影響で7月の約1ヵ月間飛ぶことができなくなったのだ。

 かつての山小屋は数十キログラムに及ぶ荷物を人力で麓から運ぶ職業、歩荷(ぼっか)という専門職に物資の運搬を頼っていた。だがヘリの普及でこうした職業は消えた。さらに、昔は月1回程度だったヘリの荷上げ頻度は山小屋で使う物資が増えるたびに上がり、今は週数回、多いときには日に数回にもなる。今日の山小屋は、ヘリがなければ回らない。

 百名山ブームで登山者数がピークを迎えた1990年代、ヘリ会社は山小屋向けの荷上げ事業に次々と参入し価格競争を繰り広げた。だがその後、飛行条件が悪い山岳地帯での荷上げ事業はリスクが高く、公共工事などに比べて高い単価も望めないため利幅が薄いと判断し、各社は相次ぎ事業縮小と撤退に踏み切る。最後に残ったのが東邦航空だった。

 業界に共通のパイロットと整備士の人手不足も重なり、荷上げ事業への今後の新規参入は望むべくもない状況になっている。

 幸いにも故障したヘリの修理が何とか早期に完了し、8月までに山小屋の孤立状態はほぼ解消された。「故障と悪天候という悪条件が重なったことでこうした事態が起きた。今後、将来的なヘリの新規購入も含み再発防止策を考える」と東邦航空の担当者は話す。だが「今夏は乗り切ったものの、今後どうなるかは極めて不透明。行政や各地の山小屋経営者全体で、何らかの対策を講ずる必要があるのではないか」と雲ノ平山荘の伊藤二朗さんは訴える。

 登山者が安全に登山を楽しむための環境は、誰がどう守るのか。

 北アルプスをはじめとする日本の一級の山岳は、その多くが国立公園内にある。国立公園とは「環境大臣が指定し国が直接管理する公園」で、国が「優れた自然の風景地を保護するために開発を制限し、自然に親しみ、利用がしやすいように必要な情報の提供と利用施設の整備を行う」と環境省により定義されている。

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最終更新:10/9(水) 14:10
ダイヤモンド・オンライン

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