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【書評】日中への忠告:エズラ・F・ヴォーゲル著『リバランス――米中衝突に日本はどう対するか』

10/9(水) 15:02配信

nippon.com

泉 宣道

中国が世界第2の経済大国に台頭し、日米中3カ国の関係は劇的に変わった。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で知られる東アジア研究の世界的権威が、その変化を縦横に語る。日中への忠告の書であり、「卒寿」を迎える著者の回顧録でもある。

日本語と中国語を操り現場で研究

本書は、著者エズラ・F・ヴォーゲル米ハーバード大学名誉教授が質問に答える対談形式で構成されている。「聞き手」は北京大学に留学した後、ハーバード大ケネディースクール(公共政策大学院)などにも在籍し、著者とは旧知の加藤嘉一・香港大学アジアグローバル研究所兼任准教授だ。

加藤氏は2018年8月末、ボストンのヴォーゲル教授宅に3泊4日滞在して連日インタビューを重ねた。今年5月にもボストンに赴き、追加取材して本書をまとめたという。著者と1984年生まれの加藤氏とは半世紀以上の年の差がある。まさに「忘年の交わり」で生まれたのが本書だといえよう。

評者は1991年6月7日、マニラの駐フィリピン米国大使公邸でのディナーに夫婦で招待され、初めてヴォーゲル教授にお会いした。1996年には米中関係の取材のため北京から米国に出張し、7月13日にボストンの教授宅を訪ねた。約1時間半のインタビュー中、日本語と中国語に堪能であることに驚いた。取材ノートに漢字ですらすらと返答を書いてくれたことを思い出す。

本書で著者は2年間の日本留学の経緯に触れている。「1958年、幸運なことに日本研究のための奨学金を得ることができて、最初の1年間は日本語の勉強に専念した」。東京・渋谷の近くにある語学学校に通った後、2年目は日本の家族関係の研究のため「千葉県市川市に妻と暮らし、(中略)6つの家庭を毎週訪問した」

「訪問先の家庭の父親と子どもに私がインタビューし、母親には妻から話を聞いてもらい、調査研究を実施した。あれから60年が経ったが、彼らの子供たちとは今でも家族ぐるみで付き合いがある」

著者は1961年にハーバード大学に戻って中国語を学び、中国研究も開始する。日中両国を対象とした研究手法は現場に行き、その国の言葉で人々と交流する、つまり友人になることだ。

語学を駆使して人脈を広げ、実際の家庭に入るなど現場にこだわる研究スタイルを貫いてきた。執筆に10年を費やした大著『現代中国の父 トウ小平』を完成できたのも、トウ小平の実子たちへのインタビューが原動力になっている。「彼らの生々しい証言から、父親がどんな人物だったのかを可能な限り知ることができた」と述懐する。

1980年夏には中国・広州の中山大学に2カ月滞在し、夏書章・副学長(当時)と知り合いになった。最近はメールでやりとりしている。「友人を作ることは、私の生涯にわたる研究生活にとって極めて重要だ。夏書章は今年100歳になる。私は来年90歳になる。私たちはまだ生きている。そして友人なのだ」

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最終更新:10/9(水) 15:02
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