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ノーベル化学賞受賞! 吉野彰さんに大きな影響を与えた“2人の日本人”とは?

10/9(水) 20:42配信

文春オンライン

 今年も日本人ノーベル賞受賞者が誕生した。10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは2019年のノーベル化学賞受賞者を発表。今年は旭化成名誉フェローの吉野彰氏(73)ら、3名が受賞した。受賞理由は「リチウムイオン電池の開発」。スマホやノートパソコンなど、今や私たちの生活に欠かせないこの発明は、いかにして生まれたのか。

【写真】「リチウムイオン電池」開発に影響を与えた吉野彰さんの“先輩”

 実は 「文藝春秋」2017年8月号 において、評論家の立花隆氏が吉野氏のもとを訪ねたルポを掲載していた。吉野氏の受賞を記念して、同記事の全文を特別公開する。

◆◆◆

 神田神保町の旭化成本社におもむいて、顧問の吉野彰氏にお会いしてきた。吉野氏は、しばらく前から次の日本人ノーベル賞最有力候補者として、名前があちこちであげられている。

 何をした人なのかというと、リチウムイオン電池を開発した人である。電池といえば、ちょっと前まで一般の人が知る電池は、昔ながらの乾電池と鉛蓄電池(自動車用)、それに時計用の水銀電池ぐらいだった。最近急に多くの人が使いはじめたのが、リチウムイオン電池(携帯電話もスマホもカメラもノートパソコンもその他もろもろの携帯電子機器のたぐいすべてがそうだ)。

 20世紀末から21世紀にかけて登場した世界の新しい文明の機器のほとんどが、リチウムイオン電池によって動かされている。リチウムイオン電池は現在世界で年間10億個以上が生産・使用されている現代社会の基本的エネルギー源だ。それはすでに自動車、航空機にまで入りこんでいる。その基本特許を持っているのは旭化成である。

 といって、ノーベル賞のほうは、まだ決ったわけではないし、リチウムイオン電池が生まれる過程には多くの人がかかわってきたから、ノーベル賞委員会の見立てによって、具体的な受賞者の名前に多少のちがいが出てくるかもしれない。しかし吉野氏の名前がリストから脱けることがあろうとは思えない。グローバル・エネルギー賞(ロシア)、チャールズ・スターク・ドレーパー賞(アメリカ)など、ノーベル賞に並ぶ賞を吉野氏はすでに次々受賞している。

 現在使われている形のリチウムイオン電池の原型を開発したのが、吉野彰氏であり、その基本的仕組みも、基本的製造上のノウハウも、すべて特許にしてしまったので、旭化成は、かつては東芝と共同出資の会社を作って自ら電池を製造販売していたが、いまは電池に関してはもっぱらライセンス商売と基幹部品の製造販売で儲けている。

 先日、日本経済新聞社が、毎年恒例の「主要商品・サービスシェア調査」を発表した。リチウムイオン電池の項を見ると、1位がパナソニック、2位がサムスンSDIと世界的電機メーカーである。しかし、基幹部品のリチウムイオン電池向けセパレーターでは旭化成が圧倒的トップシェアを保持している。

 セパレーターというのは、電池の中で電解液という化学反応の中心的担い手の陰(マイナス)極側と陽(プラス)極側がまじり合うのを防ぐためにさし込まれているプラスチック製境界板のこと。このセパレーターには、ナノメートル単位の微細な穴が無数に空いており、その穴を通して特定のイオンが通過したり、通過しなかったりする。それがうまくいかないとリチウムイオンが結晶となって析出し、ついには過熱して発火する。デル社のノートパソコン発火事故、サムスンのスマホ発火事故、ボーイング787の発火事故など、リチウムイオン電池関連の発火事故のほとんどはこのセパレーターの不具合に起因している。つまりリチウムイオン電池の生命線はこのセパレーターにある。ここが技術的に最もむずかしく、利益率も高い。旭化成はそこをしっかり今も自分の手で握っている。

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最終更新:10/9(水) 21:48
文春オンライン

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